12
そう思った。
──ごめんなさい。
だけど、違っていた。
──雪華が、迎えに来てほしいなんて言わなければ。
僕の声は凍って届かないのに、夢が気まぐれな慈悲をくれたらしく、雪華の声だけがしっかりと僕の耳に届く。雪華は、ボロボロの僕を見て泣いていた。氷山が成長して、僕と雪華の距離を遠ざける。
それは、雪華が現実で生きるという夢を捨てようとしている証なのだと感覚でわかった。雪華は、僕をこれ以上痛い目に合わせないように、一人で死のうとしている。
おそらく現実に近づいたこの場所での怪我は、雪華と巡った夢の世界のアクシデントと違って、下手をすれば本当に死ぬのだろう。
だけど僕が怖いのは死ぬことじゃなかった。僕が怖いのは、雪華が永遠に僕の手の届かない場所に行ってしまうことだった。雪華がいなくなる雪華が死んでしまう雪華が雪華が雪華がユキカがゆきかがががあがががががががが。
「────っ!」
僕は夢と現実が突きつける事実に発狂した。だけどやっぱり声にならない。なのに雪華の声だけが頭に響く。
──ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
違う! 雪華が謝る必要なんかどこにもない! 雪華と現実で一緒にいたいというのは僕の
だって、
ぼくは、
「大好きなんだ────!」
雪も夢も現実も全て吹き飛ばす勢いで、いや実際吹き飛ばしながら叫んだ。意地悪な夢が目を丸くしたのを見たような気がするけど錯覚かもしれない。
だけどとにかく、僕のありったけの気持ちは凍りつくことなくセカイに響き渡った。
僕の口を塞ぐ勢いでドカ雪が降る。事実僕の口は雪に埋まった。だけど叫んだ。叫ぶ熱で雪は蒸発して、僕の言葉も止まらない。
「大好きなんだ! 雪華が! 雪華が! 世界一! どんなお姫様よりも綺麗で、可愛くて、こんな僕に笑いかけてくれる、雪華が! 好きだ好きだ大好きだ! 雪華がいないなら生きてたってしょうがない! 雪華がいないなら死んでやる、死んでやる!」
世界一雪華が好きだと自称するのも僕なら、今この世で一番情けないのも僕だった。姫に愛の言葉を告げる口からは血を吐いて、鼻水には鼻血が混じり、衣装は血で真っ赤っ赤。
愛の言葉は姫を連れ戻す優しくて勇気のわく言葉ではなく、ただの一方的な喚き散らし。歴史で、童話で語り継がれるほどに滑稽なバカがここにいた。
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