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 語り終えた本は、息絶えた蝶のように、ページを開いたまま床に墜落した。


「……このセカイは、雪華の想像した、夢のセカイだってことか」


 驚きはなかった。また一緒にいられるのが嬉しかったし、不思議な世界を旅してまわれるのも楽しくて、深く考えなかっただけで。


『最初にお前とお姫様──雪華が会って、手を取り合って走って行った時』


 頭の中に直接語りかけるような声がした。化け猫フックの──ぬいぐるみ達の声だった。

『一瞬、体が浮くような感じがしただろう』


 確かにあの時、僕の体が軽くなった感覚があった。家で本を読んでばかりで、運動不足のはずなのに、重石を取ったような軽さがあったんだ。


『あの時にお前は死んでる』


 背筋が震えた。ヒナギクのセカイの時もそうだけど、あんまり死にたくないとか考えたことなんてないのに──生存本能ってやつが無意識にそうさせる。


『正確に言えば死んでいないが、それに近い状態になってる。マッチ売りの少女って本があっただろう、お前はあれの女の子みたいに、お姫様に手を引かれて、魂だけがこのセカイに来たんだ。そのまんま、手と手繋いで天国に行くのだって、ハッピーエンドの形の一つだろう』


 僕に雪華を頼むと言ったくせに、恐ろしくドライなことを言う。


『だけどそれは、お姫様の望むところではないんだ』


 ヘンゼルとグレーテルのセカイで、容赦なくおばあさんをかまどで焼いてしまった雪華は言っていた。


『こうして仁にいさまを閉じこめておけば、仁にいさまをどうするのも雪華しだいです。例えば、殺しちゃうことだって』

『嘘ですよ』

『女の子は、どんなことがあったって、好きな人のことを殺せないものです』


 雪華は、どんなことがあったって僕を殺せない。死んで、一人ぼっちになったとしても、僕を殺せない。


『お姫様は、お前をここに連れてきた後で、すぐにお前が夢ではなく本当のお前だってことに気がついたみたいだ。自分の遊びに喜んで付き合ってくれるお前は、間違いなく大好きな想い人そのものなんだと。ずいぶん愛されたもんだ』


 黙りこむ僕に、化け猫フックは苦笑いしているような声を送ってきた。


『死んだようなって言っても、体の方はちゃんと生きてるから安心しな。お前は体に戻れば、なんの問題もなくまた生活が出来る。お姫様は最期にまたお前と遊びたかっただけだ。お姫様がお前を一緒に連れて行きたいと思うような子じゃなかったのは、そんな彼女に心は完全に持って行かれてしまっているお前にとっては、いい話ではなくただの悲劇かもな』


 雪華は僕を殺せない。殺していいと僕が言っても、殺せない。


『二人で死ぬのも、お姫様だけが死ぬのもお前は望んじゃあいないんだろ?』


 化け猫フックの問いかけに、僕は駆け足で返事をした。

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