仁さんは、ゆきかにとって、星の王子様みたいな人でした。お父さんやお母さんに言っても笑われてしまうようなことに、別の答えをくれるんです。永遠に好きな人に会えないお姫様、二度と会いに行かなかった男の人。


 仁さんは別の角度から物を見て、男の人だって寂しかったんじゃないか、って言いました。そっかあ。男の人も寂しかっただなんて、思いもしませんでした。ついついゆきかは、永遠に独りぼっちになってしまったのであろうお姫様に、感情移入しちゃっていたのです。


 ゆきかの王子様フィルターを通さなくても、国語の問題集よりは鋭いと思われる着眼点を仁さんが持っていたのは、やっぱり仁さんが、トランクをなくしてお姫様に会いに行けなくなった男の人とおんなじ、男の人だからでしょうか。


 男の、人。そうです、王子様みたいということは当然、男の人なんです。仁さんが雪華のことを女の子と意識していてくださるかは別として。雪華が、ただの、妹みたいな子だとしても──。仁さんが男の人であるという事実は、変わりがないのです。

 

 うう、体が熱い。今日は体調いいはずなんだけどなあ。


「ゆきかがいなくなったら、仁さんは寂しがってくれますか?」


 体から沸き上がる熱を隠すように言うのは、頭の中に沸いた疑問の言葉。自分の体の弱さから想像できるであろう未来を意識しなかったわけではないけれど──。いなくなったら寂しがってくれるといいなあ、なんてお願い事だけが、単純に前に出たような問いかけでした。


「あたりまえじゃないか」


 泣きそうな声で言う、演技混じりっけなしの声が、嬉しかった。心の中に花が咲いたみたいです。それからは、いつもの演技がかかった言葉の交わし合いだったけど──。


 これはこれで、普通にしていたら聞けない言葉が聞けるから、嬉しいです。例えば、あなたが幸せの青い鳥を探しに行こうと、部屋の中で手を引いてくれた時。雪華は木こり小屋の前の外、寒い冬の季節の中にいました。これから雪華と仁さんは、きれいな空色の鳥を探すために、いろんな国を旅するんです。思い出の国って、どんなところなんでしょうね。


 仁さんは雪華がいなくなったら寂しいって言ってくれたけど、そしたら、雪華のことを思い出すたびに悲しい気持ちになっちゃいますか?仁さんが悲しむのは嫌ですけど、雪華がいないのを寂しがってくれるのは、くすぐったくて、あなたの手のひらみたいに温かいですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る