切っても切っても延びては再生する茨を、勇気の剣で切って、その先の壁も切って無理矢理扉をこじ開けた僕は、いつの間にかピーターパンの格好から、ずいぶんとご立派な、王子様スタイルになっていた。


 きっと一緒に遊んだぬいぐるみ達は、僕を王子様と認定しながらも、お腹の底でちょっぴり笑うに違いない。


 お前が王子? 冴えない、なあんにもないお前が?


 確かにそうかもしれない。


 王子というには、僕は冴えなくて、カリスマもなくて、何の特徴もない、吐いて捨てるにも中途半端な人間だ。でも、三つだけ。たった三つだけ、僕は、王子かもしれないという確信を持てる根拠がある。

 

 僕は、お姫様が大好きだ。名前に負けない、白雪のような、お姫様──からっぽの僕に微笑みかけてくれた、温かい雪のような女の子──雪華が、大好きだ。


 それから──。


「あなたがへいをとびこえてやってきてくれたとき、ゆきか、あなたのことをおうじさまみたいだっておもったんです」


 雪華は僕のことを、王子様みたいだって、言ってくれたんだ。確かに僕は、冴えないしバカだし臆病かもしれない。だけど、誰かがそう信じてくれるなら、くじけて折れてばかりの僕でも、期待に応えようと奮い立つことができるんだ。


 三つ目。三つ目は──。僕の名前が、尾羽仁(おう じん)。続けて読めば、王子様みたいな響きだってことさ。


 バカな根拠かもしれない。名前の響きが似てたって、星空の星と、物干し竿の干しくらい違っている。


 でも僕は。僕と雪華は。僕と雪華とたくさんのぬいぐるみ達は。


 ウソの人形遊びのセカイだって、とっても大切なものだったんだ。

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