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「仁さん!」
その一声で我に返った。雪華の声。劣勢だった押し合いが、一気に優勢になる。お姫様の声援の元、無理矢理な勢いで押し返して、化けネコが体勢を崩したところを、横薙ぎ一閃でトドメを差した!
巨体が、やけに軽く、振動もなく倒れ伏す。
「・・・・・・雪華」
さっき大ネズミを倒した時と同じくらい、あっけなく倒れてしまった化けネコに僕はなんの感慨も湧かなかった。
ただ、みっともなく、泣きそうな顔で愛しの雪華姫様の名前を呼ぶばかり。
「仁さん・・・・・・」
いつの間にやら縄を解いて、僕のすぐそばにやって来ていた雪華が、僕の感情の鏡写しみたいに、泣きそうな顔をしていた。
「化けネコの言うとおりだ。僕は狼少年。嘘つき」
雪華は泣きそうな顔をしている。
「仲良くさせてもらってたんだ。最近雪華と連絡が取れないけれど、どうしてるのか聞くくらい、しようと思えば出来たはずだ。メールも携帯電話もダメなら、家の電話に直接かけたり、手紙で聞いたり、なんなら、自分の足で、引っ越し先に行ったっていい」
雪華は泣きそうな顔をしている。
「それをしなかったのは、怖かったからだ。いつも、いつでも、連絡をくれた雪華が、何で連絡をしてくれなくなったのか。その先を想像したくなかったんだ」
蕾が花開くように、雪華は泣きそうな顔から泣き顔になった。
泣いている彼女の心臓の部分には、彼女の死を指さすように、鋭い矢が突き刺さっていた。
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