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何故? とクエスチョンマークだらけの頭は、勢いよく出てきたランプの精みたいに、理由をはじき出していた。
ネズミに化ける、の前に「小さな」という重要なワードを付け忘れてた。
「ん? なんだ貴様、その獲物は・・・・・・もしや俺を退治するためにやって来たのか!」
僕が弁解をする前に元・熊は怪物ネズミの姿のまま、僕に襲いかかって来た! 部屋のベッドでゴロゴロしてる時の要領で、高速で転がってネズミの爪を避ける! 今まで僕がいた場所に、見事大穴が空いた。
いやあ、友達いなくて帰ったら部屋でゴロゴロするしかない生活が、こんなところで役に立つとは。いや偶然だろうけどね。
なんていってる場合じゃない!
すぐに立ち上がって体勢を直すと、無惨に砕けたテーブルの脚を掴み、怪物ネズミに向かってブン投げた! 一応命中! だけど体毛が邪魔してさっぱり効いていない。フン、と鼻で笑われた。
「そんなものがこの俺様に効くと思うか!」
俺様だって。キャラ変わってるよ。まあ姿も変わってるんだけどね。すぐさま繰り出される爪の斬撃、避ける、避ける、避ける!
ひえええ、今かすったああああ! 頬が切れた、切れたあああっ! 思わず手で押さえながら、前を向いたまま後退。
でっかい怪物の城なせいか、異様に部屋が広いのが不幸中の幸いだ。バックステップ! うわあ身軽。今僕がいたところを、化け物ネズミの爪が襲う。大穴。ひええ。漏らしそう。
ええい、こうなったら破れかぶれだ! とりゃあ! それなりに腕を上げたナイフの投擲を受けて見ろ! それなりに腕の上がったナイフはそれなりの精度と速度を持って化け物ネズミのしっぽに当たる。
しっぽじゃ意味ないよしっぽじゃあっ! と僕が頭を抱えたとき、
「グギャアアアアアアアッ!!!!」
断末魔。まごう事なき、化け物ネズミの。え? あれ? 直後、地響きのような、巨体の倒れる音がだだっ広い部屋に響く。僕、ぽかーん。おそるおそる近づいて、体を小突いてみたけれど、なんの反応もありゃしない。どういうことだ?
「怪物の急所を突くとは・・・・・・一応、流石と褒めてやろうか」
悪役のような台詞を吐いて現れたのは、鶴にお皿のスープを振舞うキツネでもなければ、お姫様に毒リンゴを食べさせる継母でもなく、僕の代わりに連れて行かれたネコだった。
わざとらしい拍手付きだったけど、肉球が柔らかすぎるのか、ポフポフという音しかしなかった。なるほど、大ネズミの急所はしっぽだったわけか。
ジークフリードの血を浴びてない部分とか、愛妻家のキャラクターが妻を人質に取られた時みたいな。
「だがな、それだけでお姫様とハッピーエンドなんて言われちゃ、こっちは面白くもなんともないんだよ」
ネコは、お月様の形に、にんまりと笑った。まるでチェシャネコみたい。
「お前が何の考えもなしに遊びほうけているうちに、大好きなお姫様は、他の男のものになっちまうんだ・・・・・・どうするよ、ピーターパン?」
「え?」
ネコに言われた瞬間、僕は頭に羽を差した帽子を被り、特徴的で活動的な衣装を着た──永遠の少年になっていた。もちろん、僕はその格好にとても見覚えがある。
言われた通りの、ピーターパンだ。
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