そんなわけで、僕は怪物の住む城へとやってきた。白の外観は確かに一つ一つの材料に質の良い物を使っていて、それぞれが立派な城だという全体の印象を作り上げる大事な要素になっている。


 だけどなーんか、おどろおどろしいんだよね。曇り空に太陽が隠された時の景色というか。使う人が悪い奴だと、物も曇ってしまうのかも。


 たとえば雪華がかぶっていた銀のティアラなんかも、僕が被ってたら猫に小判の豚に真珠だろうからね。考え事はこのくらいにして、僕は立派なお城の門の前で中の人に呼びかけてみた。すみませーん!


 呼びかけると、大きな大きな門が開いて、僕の二倍くらいの大きさの熊が現れた。


「俺がこの城の主だが、何か用か?」


 あれ、城主様本人が直々にお出迎えしてくれるの? 普通兵士とかお手伝いのメイドさんが対応してくれるんじゃあ。なんて、このセカイで現実の常識に当てはめてもしょうがないと思うから、考えないことにした。


「あなたと是非話がしてみたいと思いまして」


 僕がお決まりの言葉を言うと、デカい熊は僕を客室に通して、温かいホットミルクとクッキーを振る舞ってくれた。意外といい人(人じゃないけど)かもしれない。でも材料は本当に小麦と卵と砂糖なんだろうか。


 こいつは熊だけど、元の話だと人喰い鬼だし。まあ熊だから大丈夫だろう。せいぜい砂糖の代わりにハチミツが入ってるくらいだうん。


「ところであなた様は、聞くところによるとどんなものに化けられるとか。たとえば、象とか」


 ハチミツの匂いがする気がするクッキーをかじりながら、僕は言った。僕の言葉に気を良くした熊は、立ち上がり、でっかい体を更に大きな象へと変貌させてしまった。いやー、それにしても熊が象になるのってシュールだなあ。


 体毛がドバドバ抜けて、膨らんだパイでも作るみたいに体が引き延ばされて。上手な子どもの工作みたいに、熊は象に変身して、パオオオオオオオオン! と鳴いた。

 

 あまりの声量に僕はすっかりビビって、ホットミルクのカップとソファーごと後ろに倒れてしまう。あちちちちちちちっ! かかったかかった! 腕に! 熱いのを堪えながら、僕は次の言葉を繰り出した。


「い、いたた、じゃなかった、いやー、でもまさかネズミには化けることは出来ないでしょう」

「なんだ、そんなこと」


 ぐんぐん体積が縮んでいく元・熊に対して、僕はしめた! と腰のナイフを引き抜いた。小さなネズミならこっちのもの! 王様に献上する動物を手に入れるための狩りで腕を上げたんだ、一瞬で倒してやる!


 なんて考えていた僕の気持ちを、目の前の「ネズミ」は見事に打ち砕いていくれた。たしかに形はネズミだ。丸い耳、やけに生々しいピンクの長いしっぽ、ふさふさの体毛。


 だけどサイズが全てを台無しにしている。確かに元・熊だった象(自分で言っててややっこしい)よりも体積は減っている。けれど本来あるべき大きさになる前に、面積の縮小は取りやめになってしまわれていた。


 結果、最初の熊よりも大きな、怪物ネズミの出来上がり。

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