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というわけで僕は、切り株に腰掛けながらずだ袋をちくちく縫っている。家庭科なんてまともにやった記憶がない。調理実習も見てるだけ(空気ともいう)だったし、縫い物系はみんなメイドイン母親だ。
などと考えていたら、思いっきり指を針で刺してしまった。痛い。昔から縫い物をさせられると必ず一回は針を指に刺してしまうんだよなあ。だから嫌いなんだ。ため息をつくと、ネコがそっぽを向いたまま、しっぽだけをふりふり動かして、「がんばんな」と気のない応援を送ってきた。
せんきゅー。心の中でだけど、僕も棒読みで答える。そうだね、「お姫様」に会うためなんだから、がんばんないとね。お姫様というのは当然雪華のことだ。あんなかわいい子が王様とか化け物の格好とか・・・・・・まあ、それはそれでアンバランスさが逆にやんちゃっぽくてかわいい気がするけど、それはそれ。
化け物、の辺りで何故かネコ耳姿を思い浮かべてしまったけれど、だとすると耳もやっぱり金色をしているんだろうなあ。ミケネコみたいに一部分だけ茶色とか、違う色が混じっているのもアリだと思うけれど。
うお、いたたたたたたたたたた!!! バカな妄想に耽っていたせいで、また指を針に刺してしまった。
ずだ袋がぬい終わる頃には、手がミイラになってそうだ。想像しただけでいててててて。幸いにも袋が出来あがった時、指はバンソウコウまみれ程度で留まってくれて、僕は王子候補の平民から手だけミイラ男に格下げされずに済んだ。
ズダ袋には多少血がついていたけれど、そこはご愛敬だ。長靴はポケットに入っていた銅貨数枚を使って買ってある。せっかくなので履いてみた。うん、王子様衣装よりは似合ってるかも。
さて、次は獲物を捕まえるわけだけど、これが中々キツくて・・・・・・ウサギのすばしっこいこと、鳥の羽ばたく姿の優雅なこと。僕がへっぴり腰で追っかけて、なんとか鳥とウサギを一匹ずつずだ袋に収めたときには、もうヘトヘトで動く気にもなれなかった。なれなかったけれど、ドレス姿の雪華がヒラリと裾をひるがえらせて、頭の上の、氷を削り上げたようなティアラを輝かせて、ふわっと微笑む姿が頭をよぎると、頑張ろうという気になれた。
折れた棒のようになっていた腰がしゃきんとする。捕まえるのに使ったナイフを腰に差し、力を失って重たいウサギと鳥の入った袋を持って、切り株の上、優雅に昼の夢を見ているネコのところへ戻った。
ネコは僕が戻ってきた瞬間、大きなネコ目を開いて、満足そうに頷いた。
「よーしよしよし、お前にしちゃあ良くやった。そしたらさっさと国王陛下に献上して来い」
・・・・・・さっきの話はそれから、っていうのは何だったんだよ。確かに王様に贈り物をしなきゃ話が始まらないけどさぁ。これ持ってきたらネコが何とかしてくれるんじゃないの?
非難の目線をネコに贈ってみたけれど、ネコはそしらぬ顔で周りを飛んでいたちょうちょを尻尾で撃退していた。
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