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そんなわけで一匹のネコとパンと共に家を蹴り出された(比喩でもなんでもなく、本当に蹴り出された)僕は、切り株に腰掛けて、おきまりのセリフを言うことにした。ところでライオンの財産がネコって、実は隠し子じゃないのかなあ。ホントは実の息子はネコで、僕とアリクイとカモの兄さんには相続権なんかこれっぽっちもなかったりしてね。
「ネコ一匹じゃあ、僕はネコを食ったら後は飢え死にするしかないなあ」
言っててわざとらしいんだけど。大体からして、この話は、ボケーッとしている間にネコがいろいろしてくれて、城持ち嫁持ちになってしまうという、ネコがぼた餅とコマをくわえて持ってきてくれるようなお話なのである。
結果的にはちっぽけなお家と、貧相な畑よりも上等な財産持ちになるっていうね。まさに余り物には福があるというか、果報は寝て待ってたら本当に来るってな話なのである。だけどネコはプイッと明後日の方向を向いて、知らん顔をした。
「だーれがお前なんかの食料になるもんか。言っとくけど、お前が金持ちになる手伝いなんか、絶対にしないからね」
「ちょ、ちょっと待って、何でさ」
「お前が気に入らない。それから、やったってムダなことは最初からやらないほうがいい」
「なんでやったってムダなのさ?」
「んなもん当たり前だろ。一千億万歩譲ってお前のお膳立てしてやったとして、騙すには騙すための才能ってもんが必要なのさ。お前に姫さまを一目惚れさせるような美しい容姿があるか。ボロが出ない高貴なしゃべりが出来るのか? そもそも友達もいないくせに、まともな会話が成立するのか」
は、ハッキリ言うなあ。確かに僕は容姿も並だし、敬語だって正しく使えるかはわからないし、雪華以外に、まともに話をする相手もいないけれど。
「じゃあ、どうしろっていうのさ。せめて、それだけでも教えてくれよ」
「貴族の下世話な企みを阻止するよりもずっと簡単なことさ。天性の才能のない奴が、才能のあるやつと同等とまではいかないでも、近づくためには、どうすればいい?」
「・・・・・・努力?」
「正解。デクの棒かと思ったけど、大木になる寸前のウドくらいは役に立つじゃないか」
それ役に立つの? と思ったけど、ネコがエヘンぷいと威張っているのは結構和むのでスルーした。
「そう、努力。努力は何にも代え難い。人間全てに与えられた尊い平等な財産さ。王様にあげる獲物を入れるずだ袋は自分で繕って、長靴は頑張ってどこから調達してこい。話はそれからだ」
説明は終わったとばかりに、ネコはたった一つしかないパンを一匹で全部ペロリと平らげてしまった。
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