視界が切り替わった。はかない彼女の声の代わりに聞こえるのは、おーいおいおいと見事なくらい型にはまった声色で泣き叫ぶ声。アリクイだ。アリクイが、デカいカモと一緒に、ライオンの眠っているベッドにすがりついて泣いているところだった。


 母親が誰なのか、一体全体僕には検討もつかない。神様のいたずらで、コウモリかもしれない。獣とも鳥ともつかない体だから、一応説明がつく、と思う。コウモリって鳥か獣か、どっちなんだろうね。


「父さんが神の元へ旅立たれてしまわれた」


 舞台の上に立ったように、カモが器用に翼でトリ目を覆い隠し、悲しみを表現してみせた。


「俺たちの心臓は張り裂けんばかりに痛んでいる」


 同意を求める教卓上の先生のように、アリクイが舌をベローンと伸ばしながら、腕を広げる。飛行機みたいだった。


「俺たちに残された遺産といえば、このちっぽけな家と畑と、ネコ一匹」


 家と畑とネコ一匹? ああ、長靴を履いたネコなわけか。とすると僕は──。


「そうそう三男坊、名前は頭の片隅にもないがとにかく三男坊、おまえはたいそうこのネコをかわいがっていたね。兄さんたちもネコがだーいすきだから心苦しいが、ここは涙を父の死と共に飲み込んで、お前に一匹の生命を預かることを、快く許そうじゃないか」


 あーやっぱりねー。にしても名前も覚えてないって酷いな。元の男の子もこんな感じで、常日頃からおざなりに扱われてたんだろうな。

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