三章・ながぐつを履いた猫と永遠の子どものセカイ

 雪華が、眼前で溶けて消えていくのが、映画のスクリーン越しみたいに目の前で繰り広げられた。最初は、セカイの中に消えていくみたいに、透明になって、輪郭だけが残ったかと思うと、輪郭は真珠よりも小さな泡にまとまってしまった。


 泡に、よおく目を凝らさなければわからないような、わずかなヒビが入ったかと思うと、卵から純粋な生命が生まれるように、美しい女神が体現した。


 女神もとい雪華は、必要最低限の部分が隠れる程度の白い布切れしか身につけておらず、病弱な体の栄養一切合切を受付中のごとく膨らんだ胸部が見えそうで、耳の辺りまでカーッとなってしまう。


 だけれど、わかりやすい色香よりも僕を引きつけたのは、いっぱしの彫刻家が全生命をかけて彫り上げたように均整の取れた、彼女の全体の美しさだ。


 雪華の体からわき上がってくる青い光は、海に包み込まれたようであるが、あの広い体に負けてはいない。


[王子さま]


 雪華が、誰かを呼んだ。愛おしいという瞳の色をして僕の方を向いているから、光栄なことに王子様というのは僕のことらしい。


 だけど彼女の呼び声は発するそばから消えてしまう。何しろ彼女は泡──空気の精霊だから。精霊なんて聞こえはいいけど、人間が星になるとか精霊になるってことは実質どういうことなのか。


 僕は考えたくなかった。だってここはおとぎ話──僕と雪華が居る、セカイだから。


[  ]


 彼女が何かを言う。言葉は端から溶けてしまって聞こえない。愛しい彼女の言葉を聞き漏らすまいと耳を傾けたところで──。

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