3
さて次の日。ピクニックに行った。父親と母親が仕事をするフリして僕らをポイしていったのをこっそり、茂みから様子を伺いながら見送った。シュールな二人(二匹? 二個?)の後ろ姿を見送りつつ、クマとワニって子供作れるのかなあなんて下品なことを考えたのは内緒だ。同じぬいぐるみどうしだから、作れるのかもしれないし。
僕はいかにもメルヘンかファンタジーにありがちな、座るのに都合がいい大きな切り株に腰掛けて一息をついた。
「んじゃあ小石が光り始める夜までまとうか」
「そうですね」
雪華はあいかわらずかわいい。僕の顔を見てにこにこしてる。でも、
「その小さくてすべすべした手のひらいっぱいに持っているものは何かなあ?」
「まあ、仁にいさまったら、なんだか手のひらの表現がおじさんっぽいですわ」
「微妙にお嬢口調で見当違いの方向に照れていないで、質問に答えて」
「はい、お兄様が昨日頑張って集めてきた小石です♪」
「小石です♪ ……って」
どうするんだよ、これじゃあ帰れないじゃないか。
「だって、どうせまた捨てられて帰ってこれなくなるのなら同じじゃないですか」
むう、とほっぺたを木の実頬張りすぎたリスみたいにしていじける雪華。いやまあ、そりゃそうだけど。ヘンゼルは一回目は拾っておいた夜光る石のお陰でおうちに帰ってこれるけど、二回目は石を拾えなくて、パンくずを落としていって鳥に食べられちゃったんだ。それで家に帰れなくなる。
「さっさと二人きりになれたほうが、都合もいいですし」
言って、雪華はお行儀悪く、大きな切り株の上にゴロンと寝っ転がる。
「さあ、飢えて死んじゃう前に、頂いちゃってください」
「何を言っているのかな、雪華は」
「もう、にいさまってば」
仰向けに寝っ転がったまま、雪華は不服そうに細い眉を吊り上げる。切り株の上に、綺麗な髪の毛が散らばっていた。
「どういうことか、わかってるくせに……」
切なげに言って、雪華は服のボタンに手をかけた。極上のみずいろ絵の具に水を落したみたいに目が潤んで、細すぎる指が、ひとつひとつ丁寧に、ボタンを外していって……。
「いやいやいや、ちょっと待って」
「にいさまは脱がすほうがお好みですか?」
「うーん、まあ雪華ならどっちでも、ってだからそうじゃなくて」
「食べないと、飢えて死んでしまいますよ?」
「『食べる』の意味が違ってるような気がするなあ?」
「違ってませんよ。雪華は、かまってもらえないと死んでしまうのです」
「かまってって、ふざけてこういうことしちゃあ」
「にいさまは雪華のことが、嫌いですか?」
脈絡のないようであるような唐突な質問に、僕は言葉に詰まってしまった。いや、好きだよ、でもこういうのは。
「もし嫌いじゃないのなら、問題は無いじゃないですか。雪華は仁にいさまになら、食べられちゃったってかまいませんよ?」
雪華がふんわりと微笑む。切り株の上に散っている金色の髪の毛が、森の中の宝物のように輝いている。
ちょっとまって、雪華は妹で、いやでも、妹なのはこのへんてこりんなセカイ限定のことで、ああ、なら問題は全然全くこれっっぽっちもイノシシの毛ほどの問題もないわけで、ならおいしく頂いてしまっても平気っていうか据え膳食わぬは男の恥っつーかそのおいしそうなほっぺにチューするくらいならいいかなって。
結論づけた僕は、雪華の上に覆いかぶさった。平均身長くらいの僕の体が、小さな雪華の体に影を落として、そこを汚したように、うすいフィルターを作った。雪華は夜に素敵な夢を見ている女の子みたいに、目を閉じている。
そのほっぺたへ、顔を近づける。後数十センチ、数センチ、数ミリと僕の顔が近づいたところで、
「ぶにゃん!」
「ゲボグッ?」
横っ腹に何か重いものがぶつかった。
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