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てなわけで気まずい家族生活が始まりました。食事が酷いです。父親(クマのぬいぐるみ)がいない時はパン一個です。二人で。
やたら広々とした木のテーブルの皿にぽつねんと置かれたそれは、やけにみすぼらしく見える。
「はい、仁にいさま」
コッペパンに三つ横に切れ込みを入れた感じのベタなパンを半分、グレーテルもとい雪華が差し出してくる。僕が受け取ろうとすると、雪華は意地悪くパンを遠ざける。
「あーんしてください」
「え」
あーんって、ちょっと待って、とか言う前にパンが口に突っ込まれ、モゴ。
「おいしいですか? 仁にいさま♪」
「ふ、ふん、ほいひーほ」
でもなんていうか、いかにも西洋の童話って感じの、地味なエプロンドレスっぽい服を着た雪華グレーテルはとってもかわいくて、というかにいさま呼びがやたら胸にガツンと来て、噛む前に「うん、おいしーよ」とか返事をしていた。
モグモグ、「よかった」とかニコニコ笑ってる、モグモグ、雪華は、まるで整ったお顔の、モグモグ、お人形さんが笑う、奇跡を目撃してるみたいで、ゴクン、って、
「雪華、そんなに大口を開けてどうしたの?」
虫歯無し。いい歯をしている。なんてボケてみたけど、まあ流れからしてこれは。
「雪華にも、あーんってしてください、仁にいさま♪」
やっぱそうなるよねー。まあ仕方がない、かわいい『妹』のお願いだ。流石に僕がされたみたいにひとかたまりを小さい口につっこむのはあんまりだとおもったので、適当にちぎって、食べやすいようにしてやる。もぐもぐと、小動物っぽい小動物ではない綺麗でかわいい何かが、食物を咀嚼している。
「おいしいです、仁お兄さま。もっとください」
「はいはい、お姫様兼妹の雪華、あーん」
「あーん♪」
うーん、恥ずかしいけど、やってみると案外楽しいぞ。なんか雛鳥にエサをやっているみたいで。こんなに綺麗な金髪の雛鳥なんていないだろうけど。二人で分ければ、お腹は減るけど胸いっぱい、なんちゃって……はっ。
「なんだい全く、行儀が悪いねえ。本当に可愛くない子供だよ、フン」
義母もといワニのぬいぐるみが、怒っていた。何だろうな、ぬいぐるみのワニに何か言われたところで、別にあんまりムカつかないっていうか、うん。しかし雪華はむー、と白いほっぺを膨らませて、憤慨していた。
「仁にいさまはかわいいんじゃなくて、カッコいいんですよっ」
怒るところそこ? まあ、今の場合に関しては、ウザがられてもしょうがない気がする。はたから見たらムカツクだろうしね。そんなバカなことをやっているうちに、夜が来た。
「あんまりウチに余裕もないし、さっさと口減らししちまおうよ」
僕と雪華がセオリー通り、ドア越しに話を聞いているのにも気づかずに、ワニ母さんは嫁いだその日に僕と雪華を捨てる算段を付けていた。結婚したその日に捨てる相談ってひどすぎるよなあ。最初から独身の人と結婚すればいいのに。
「そうだな。そうしよう」
父さんも軽っ! 酷い、オーボーだオーボー。
「大変です♪ 大変ですよ♪ 仁にいさま♪ わたしたち、お花屋さんごっこをした後の草花みたいに、ポイっと捨てられちゃいます♪」
「どうしてそんなに楽しそうなのかなあ、妹の雪華サン?」
「だってだって、二人一緒ですもん♪」
「はいはい……それじゃあ僕は小石を拾ってくるから」
雪華の言葉の恥ずかしさに口では軽くあしらいながらも、やっぱり嬉しいものは嬉しかったので、頭をポンポンと叩いてから、僕は窓枠に足をかけた。
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