二章・ヘンゼルとグレーテルのセカイ

「仁にいさまっ!」


気がついた時、僕は雪華に背中から抱きつかれていた。なんかやわらかいものが二つ当たっているんですが。やっぱり結構大きくなってませんか。いやそうじゃなくて。いったいこれはどういう状況なんだ。


 確か僕は、雪華を背中に乗せて空を飛んでいたはずなんだけど。


「というか、仁にいさまって?」

「だって仁にいさまは、雪華のおにいさまですよ」


 状況がよく飲み込めない僕に、雪華はちょっと意地悪い感じに、フフッと笑って

「今は」と付け加えた。今は?


 辺りを見渡すと、右に畑やポツポツと立っている西洋風の小さな民家、左手にいかにも迷うの専門、後で主役の人達が迷いますって感じの森が無限大に広がっていた。すぐ手前には僕達が住んでいるらしいお家。


 そしてにいさま、つまり『兄』さまと僕を呼び慕う雪華。ああそうか。


「つまり僕らは、ヘンゼルとグレーテル?」

「正解……! です」


 抱きついたまま、雪華は頬をネコのようにすり寄せた。うーんなるほど。いや全然意味がわからないけど。何だろう、お話を終わらせたら別のセカイに切り替わる形式なんだろうか?


 さっきは閉じ込められた籠の中から脱出したから、とか。外のセカイに出るっていうのも、お話にはありがちな終わりだしね。


「いやだからなんか嬉しいものが当たってるってば」

「わざとですよ?」

「わざとでしたか!」


 いやあこれはお兄ちゃん一本取られちゃいましたよ。通りすがりのネコさんが、チラリと僕らを見て、あきれたようにあくびを一つして去っていってしまった。


 ところで、ヘンゼルとグレーテルってことは。


 僕が何か言う前に、父親らしいおじさんが僕達のところへやって来た。いや、これおじさん? どうみてもクマのでっかいぬいぐるみにしか見えないんですけど。


「母さんが死んだ!」


 展開早っ! 面白いところが削られまくってる下手くそな翻訳本読んでるみたいなんですが!

「というわけでこの女の人と結婚する」

 

いつの間にか、横にはいかにも意地悪そうなワニのでっかいぬいぐるみが立っていた。おいちょっとまってよ、お葬式すらまだ終わってないでしょ!  薄情な父親だな!


「んまーっ、なんて憎たらしい、見下した目をしてるガキなんだい」


 うわ、露骨!

 捨てる気満々ですね、おい!

 見下してるのはそっちだろ!

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