小さな女の子が泣いている。宝石の涙流してる。


 ──どうしたの。


「ほんとうは、いたいちゅうしゃも、にがいおくすりもイヤなんです」


 ──だいじょうぶさ。


 何が大丈夫なんだか。その自信はどこからくるんだ。お前は痛い注射も薬も必要ないから簡単に言えるよな。


「だいじょうぶ?」


 ──そうさ。だってキミはおひめさまだからね。いまはつらいかもしれないけど、シンデレラに王子のおむかえがきたように、いつかキミにもおむかえがくるさ。


「おむかえが?」


 ──そう、おむかえ。ほら、いまめのまえにきてるだろう?


 なーにがお迎えだよ。だーれが王子様だって? そんなダッセー車の描いてあるTシャツ着た王子がいてたまるか。ちんちくりんの鼻タレの王子がいてたまるか。


 迎えに来たところで、王子が医師免許持ってんのか? 女の子を苦しみから開放で

きるのか? いったいどこのどいつだ、このキザ野郎は。


「ありがとう、じんおうじさま」


 ──どういたしまして、ゆきかおひめさま。ああなんだ、僕か。


 目を開けた瞬間、吐き気が襲ってきた。ふらふらと起き上がると、上手く立てなくて千鳥足になった。いやまあ千鳥もなにも、今の僕は鳥なんだけどさ。


 きょろきょろ辺りを見回してみると、細い鉄の棒が、下から上へと建て一直線に何本も伸びていて、頭上でまとまっている。


 鉄の棒と棒の間から抜け出ることは、小さい鳥の体でも無理そうだった。まあそりゃそうだよね、鳥籠の中にいるんだから。今の僕は鳥なわけだし、適材適所ってやつかもしれない。


 なんて達観したような気持ちでいたら、さっき僕を捕まえた子どもがやってきて、殺風景な鳥籠の床に、芝生を乱暴に敷き詰めた。


 芝生には、素敵なオマケというかむしろメインな感じで、ヒナギクの雪華もついて来た。そうそう、このお話だと、捕まったヒバリのところに、ヒバリを案じたヒナギクもやってくるんだよね。邪魔だからって引っこ抜くこうと子どもの一人が言ったのを止めてくれた、もう一人の子どものおかげで。


 僕の元にやって来た雪華も、僕の身を案じてくれていたらしく、良かったというように微笑んでくれた。花の香りがふわりと籠の中に漂う。ありがとう、僕は大丈夫。そう言おうとして、


 強烈な渇きが襲ってきた。

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