突然そんなことを言うので、僕の胸は張り裂けそうになった。僕は大げさに胸を押さえ、今にも泣きそうに目をうるませながら、僕は言った。


「あたりまえじゃないか」

「ぎゃくに、おにいさんがいなくなっても、ゆきかはすっごくなきますよ。さがしますよ」

「ぼくもキミがいなくなったら、シンデレラをさがすおうじさまみたいに、キミがみつかるまでさがしつづけるよ。さがしたさきで、キミをかなしませるひとがいたら、ボッコボコにこらしめちゃうよ」


 僕は雪華の前では雄弁な語り手であり、語りの中ではおとぎ話の英雄のように勇猛果敢だった。どうしてそんなことが出来たのかは、僕にもわからない。初めての友だち相手に舞い上がっていたのかもしれない。もしくは、


「ほんとうですか」

「もちろんさ」

「えへへ……うれしいです」



 彼女が、笑ってくれたからかもしれない。


「やっぱりじんさんは、わたしのおうじさまです」

「キミも、ぼくにとってのおひめさまさ」


 ここからごっこ遊びに移行するのがお決まりのパターンだった。


「ゆきかも――シンデレラも、じんさんのことをさがしておりました。ずっとずっと、おしたいもうしておりました」

「ぼくも、あなたのことをずっとずっとさがしておりました。あなたのことをかんがえて、ねむれないひびも、これでおしまいです」


 雪華のごっこ遊びは、原作を忠実に再現するのとはちょっと違っていた。自分だったらこうするのに、と、頭の中だけでパジャマから空想の衣装に着替えながら考える。今やったみたいに、そうして変えたシーンだけを表現することだってあった。


 起承転結が四人でケンカしてバラバラになったみたいな、もしくは眠る誰かの夢の中の、説明不足な物語を見せられるような雪華の断片的な物語は、百人が見たら九十九人がつまらないと席を立つと思う。


 でも僕はその百人の中の一人、唯一席を立たないで面白いと思う人の方だった。それどころか、その芝居に喜び勇んで参加してしまう、おとぎ話でこらしめられるおろか者だった。おろか者でもいいと思った。


 だってとっても楽しかったから。

 

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