第3話 プロローグ3
3
少年の世界は全てがモノクロームと化していた。
『…どうして』
『殺せぇっ! アストラル家の人間は一人も生かすなっ! 全てを燃やし尽くせ!』
『父さん…、母さん…』
『早くお逃げなさい! 貴方だけでも生き延び────ぐぅ!?』
唐突に飛び散る鮮血。それは白と黒の世界の中で、何故か際だった朱をしていた。
『お願い…。ルシーナ…。生きて…』
ゆっくりとくずおれる女性。次第にその姿はシルエットとなり、少年の目の前から掻き消えていく。
『か…母さぁぁ──んっ!!』
『…坊主、恨むんならお前の親父を恨みな。我が主に逆らった罰なんだよっ!』
黒いシルエットをした何かが、明らかな殺意を向けてくる。
だが、それはすぐに途切れた。
『う…、ぐっ…おぅ…ぅがぁぁ……』
黒の世界に滲む紅。一筋の軌跡を描きながら、地面にその染みを広げていく。
『父…さん』
『はぁっはぁっ…逃げるんだ、ルシーナ! いつもの地下通路は私の部下が守っている。まだ奴らは見つけていないはずだ。あそこからなら逃げられる。行け、ルシーナ!』
『い、いやだよ、そんな…。みんなをおいていくなんて…出来ないよっ!』
感情を言葉に変え、言い放つ。
直後、耳元で風切り音が鳴った。
頬に衝撃が迸る。
少年の視界の中に、幾つもの光の粒が舞う。
だが痛みは感じない。
『っ!』
『いいか、ルシーナ。よく聞くんだ。この腐りきった国を正すために、私はこの身をこの国のために捧げた。だがどうやら願いは叶わなかったようだ。しかし、お前は違う。私と違ってお前は優秀だ。自慢の息子だよ、お前は』
優しい言葉。温かい眼差し。逞しい腕。少年はずっとそれに包まれ、護られ育ってきた。
『父さん…』
『でやぁぁぁっぁ!─────────はぁっ!』
瞬間、激しい金属音。剣と剣が交差する音。
優しい言葉も、温かい眼差しも、今は少年に向けられていない。
少年が感じるのは、多くの殺意、恐怖…そして一つの大きな意志。
『父さん!』
『行け! ルシーナ! そして生きろ! お前は大事なものを守れる強い男になれ! 見つけるんだ、お前が生涯その身を捧げるべきものを! さぁ、走れ、走るんだ! 生きろ! ルシーナ!!』
『父さぁぁぁぁ──ん!』
急速に遠ざかっていくモノクロの世界。手を伸ばしても届かない。
それでも必死に掴もうとするが、気が付くと少年は一人、闇の中に取り残されていた。
『父さん…、母さん…』
延々と、そして永遠に続く黒の世界。
『はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ』
一点の白も、一条の光も射さない暗闇。もはや、自分の存在すら定かではない。
『はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ』
自分は何処に向かっているのだろう。この先に何があるというのだろう。
『はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ』
もう、消えてしまいたい…。
『っ!?』
だけど…。
だけど…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます