#55 人形の末路


 当真家、時は十二月二十四日。

 ろりこん更生委員会のメンバーは集まりクリスマスパーティーの準備をしていた。

 しかし、そこに紺の姿はなく、勿論クリスマスツリーの下にはプレゼントの箱もなかった。


「……紺兄……」


 朱音は藍音に飾り付けを教えてあげながらも、心ここに在らずといった表情を浮かべている。

 それもそのはず、紺は朱音との闘いでしっかり病院送りになってしまったからだ。


 骨折、火傷と重症を負った訳だが、無の魔力の力で驚異的な回復力をみせた紺が明日には退院する。

 それを歓迎する為?それともプレゼントをおねだりする為か、妹達はせっせと飾り付けをする。



 ……

 そんな中、一人寒空の下を小走りで走る幼女がいた。そう、シャロットは周囲を気にしながら人気のない丘に登っていく。彼女は赤い水筒を大事そうに抱えている。

 そこは小さな神社、藍音が闇に囚われた場所。


『はぁふぅ、ま、待たせたのよ。』


「おう、待った待った。それで、全部集まった訳かな?クク……」


『相変わらず陰気くさい奴なのよ……六体、この中に封印したのよ。』


「そうか。」


『約束なのよ、お前にコレを差し出す代わりに、わたちの縛を解くのよ。』


「わかったわかった、ならまずはそれを寄越せ、人形。」


『お、お前が先にわたちの……』


「駄目だ、お前が先にそれを寄越せ。」


 協力者は片手をシャロットに突き出し、不敵な笑みを浮かべた。


『絶対に……この首輪の封印を解くのよ?……わ、わたちは人形じゃないのよ……封印を解いて神の目の届かない場所でのんびり過ごすのよ。』


「人形が、何をそんな人間みたいな事を?馬鹿だなお前、笑えるなぁ、クク……」


 二人は睨み合い動かない。シャロットは縛を解くまで闇喰の封印された水筒を渡さないつもりだ。


『この水筒には六体の闇喰が封印されているのよ。でもお前、闇喰は七体って言ってなかったかなのよ?後一体はいらないのよ?』


「あー……それか。必要ないな?何故なら……俺がその七体目だからな。」


『のよ?』


「面倒くせぇがな、その力を全部合わせないと……無の器を支配出来そうになくてよ。だから寄越せ。それで俺は神をも超越する力を得る。」


 協力者?は一歩、また一歩とシャロットに迫る。ふらり、ふらりと不敵な笑みを浮かべながら、一歩、一歩。シャロットは異変に気付き周囲を見回す。


 そこには闇の壁が立ちはだかっている。逃げ場を失ったシャロットは慌てて壁に体当りするがビクともしない。それどころか跳ね飛ばされコロコロと地面を転がりうつ伏せで協力者?の足元へ。


『は、話が違うのよ……⁉︎』


「悪いな、神の人形。お前は神にも駒としてこき使われ、その上、俺にも騙されて、その命を終えるのでした。なんてな。クク……」


『のっ……ぐっ……』


 シャロットの髪を掴み持ち上げた協力者?は大事に抱えている赤い水筒に手をかけた。シャロットは短い足と手を振り回して抵抗するが……

 それも虚しく水筒は奪われてしまった。協力者?は、いや、闇喰は暴れるシャロットを闇の壁に投げつける。

 シャロットの小さな身体に電気が走ったかのようにバチィッ!と音が鳴ると、その身体は無様に顔面から地面に落下した。


 周囲の壁が消え、静寂だけが小さな神社に流れている。シャロットは震える足でふらりと立ち上がっては闇喰に睨み付ける。


『わ、わたちは……ただ……』


「あー、そうかそうか。自由になりたいんだよな〜ククッ、よしよし分かった。今、自由にしてやるよ?だから安心しな?」


 ケタケタと奇っ怪な笑い声を上げながら水筒の蓋を開けた闇喰は、封印された六体の闇喰を取り込むべくそれを口にした。

 逃さぬよう、それを全て飲み尽くした闇喰はそれこそ真っ黒な瘴気をその身に宿し、不愉快な笑い声を上げる。


『そんな……神……さ、ま……わたち……わたちは……人形じゃ……』






 十二月二十四日、午後八時二十三分、


 何らかの力で丘の上の神社が倒壊、後に全壊。


 原因、————不明。


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