#46 白い吸血鬼……の、まちゅえぃ

 


 下校時間、藍音、みくりと別れたせつなは、いつもの無表情で帰路についている。小さな歩幅で歩きたどり着いたのは家ではなく小さな公園だった。

 せつなの表情は無表情のままだ。

 公園のブランコには人が一人、それも大人の男の姿が在った。せつなは男の方へ歩く。やはり無表情で。


 スーツ姿で血色の悪い細身の男は、口元を緩めてせつなを見据える。


「やぁ、君か……クク…」


「…うー……」


 せつなは威嚇する子犬のような唸り声を漏らすが男は微動だにせず、言葉を繋げる。


「どうだ?…もう我慢出来ないだろ?……許してしまえ、そうすれば楽になれる。罪悪感に苛まれる事もなくなる…クク……お前が心に隙間をあけるだけで、それだけでいいんだ。」


「……血を吸うの…悪いことだから…でも…」


「…それでもやめられないか。」


 男は立ち上がると小さなせつなの頭に手のひらを乗せた。せつなは全身をビクッと震わせ、恐る恐る男を見上げた。その瞳は真っ赤な光を放っている。

 せつなの呼吸は次第に荒くなる。


「そうそう……それでいい。今夜あたり、盛大に吸血パーティーをやろうじゃないか。

 暦せつな、闇に堕ちろ……」


 そう言って男は公園を去る。辺りは既に暗くなりはじめていた。


(世話かけさせやがる……だが、これで後…)




 一方、当真家。


『のよ⁉︎』


「な、何よもう……いきなり、のよらないでよ!アホ毛が凄いことになってるけど…」


 唐突にのよったシャロットに悪態をつく朱音はエプロン姿で夕飯のおかずを運んでいる最中だ。


『ロリ紺!今すぐ行くのよ!闇なのよ!』


「…なっ…感知したのか⁉︎そのアホ毛で!」


『しかも……今までの比じゃないのよ⁉︎こ、これは…人外の中で極めて戦闘能力の強い吸血鬼……のよのよのー!!!!行くのよーー!!』


「わ、わかったから落ち着け幼女!…朱音、藍音を頼む!ちょいと行ってくるわ!」


「あ、ちょっと……もうっ!」



 幼女の小走りは極めて速い。そんなシャロットの小走りの後を死ぬ気で走って追う紺。

 すると道の真ん中で人が倒れているのが見えた。よく見ると近所のおじさんのようだ。首には歯型のような痕が残っている。

 恐らく闇に憑かれたせつなが、衝動を抑えきれずに血を吸ったのだろう。


『末裔なのがせめてもの救いなのよ!…これが現役時代のガチな吸血鬼なら…今頃この町はゾンビだらけだったのよ!せつなには眷属をつくる力はないようなのよ、はやく見つけて闇を打ち消すのよ!』


「……マジか…つまりは眷属をつくる力が残ってたら俺は眷属になってたのね……」


 紺は背筋が凍るような感覚を全身で味わいながら幼女神シャロットの後を追う。









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