#45 貧血ラッシュ

 


 時は過ぎて季節は冬、十二月の頭に差し掛かる。街行く人々は皆、あたたかい上着に身を包み仕事や学業に勤しんでいる。


 そんな中、今日もスーパーへ買い物に行き家事に追われるのは紺だ。朱音が帰ってくるまでの家事は基本的に全て紺の仕事だ。

 勿論、妹達の下着も洗濯している。


「うむ、そろそろ新しいの買ってやった方がいいかな?朱音も大きくなったんだなぁ、ふむふむ。」


 妹のパンツを両手で広げベランダに立つ男の母は完全に変質者のそれだった。勿論、下着類は見えない位置に干してあるのだが。


「うー寒い…こりゃ中々乾いてくれそうにないな。」



 そして夕刻、愛しの妹達が帰宅。帰って来るや否やガスファンヒーターの取り合いを始めた朱音と藍音のランドセルをグイッと掴み紺は言った。


「とりあえず着替えて来い。」


 仕方なく着替えてきたモコモコ部屋着仕様の二人はヒーターの前で丸くなった。紺はそんな二人を見てやれやれと口元を緩めた。


「な、何見てんのよ!」


 朱音は相変わらずツンツンしている。


「紺にぃに?寒いの?」


 藍音は相変わらず優しい!と紺は心の中でキュン死する。藍音はホカホカになった自分の小さな身体で紺の脚に抱きついた。


「紺にぃに、これならあたたかいよ?」


「おぉ、色々な意味であたたかいぜ妹よ!」


 紺はそんな藍音をギュッと抱きしめてテレビ前のソファに腰掛けた。朱音の刺さるような視線に気付く事はなかった。

 そんな素直になれない朱音の隣に、アイツが現れた。


「…何よ…」


『にっしっし…今ならお前も大好きな紺兄のカイロになれるのよ?ムフ…』


「極めてウザい。」


『そんな褒めるななのよ。』


「褒めてない。」


『の、の、の、』


「……の?」


『のんよーーっあっかねー!』


「ぬあっ⁉︎な、何よ⁉︎やめっ!」


 突如テンションを上げた幼女神シャロットは朱音にしがみついた。朱音が振り落そうと奮闘するが中々しぶといようだ。何とか変態神をキッチンに投げ捨てるとシャロットはコロコロの転がって冷蔵庫にぶつかる。

 冷蔵庫が開いて中からプリンが…


『のよ?…おやつなのよ!』


 シャロットはプリンを一つ手に取り、その場でペロリと平らげた。


 それを見た紺は、


「アイツら仲良いな〜」

「そうだね、紺にぃに。」


 テレビでは夕方のニュースが流れる。見慣れた街の名前が紺の視界に映る。


 "ここ、尾姐咲おねさき町で原因不明の貧血に見舞われる患者が急増しています。いずれも患者は道端で意識を失っており……"


「尾姐咲ってこの町じゃねーか。」


「貧血だって、紺にぃに。」


 "証言によると、道で女の子に会った後、いつの間にか気を失っていて気付けば病院に、と多数の被害者は答えているらしく……"


「……女の子……」


「…せつなちゃんかも、紺にぃに。」


「…いや…流石に道端では…」


「だって、紺にぃにが血を吸われ過ぎて貧血だ倒れちゃったから…その後から一ヶ月は血を吸われてないでしょ?」


「もしかして…」


『恐らく、癖になったのよ。』


 シャロットはそう言って隣にちょこんと座った。


「…ただの癖ならまた血を吸われてやれば済むんだろうが…」


『察しがいいのよ、多分、その衝動を利用して闇が付け入っているかもなのよ。それで下校時に不特定多数を襲う。』


「こりゃ、調べてみる価値はあるな。」



 ……







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