#44 チュゥゥ……

 


 チュゥゥ……



「ぬががが…⁉︎」


『おー!ガクブルしてるのよー!顔が真っ青なのよ〜!面白いのよ〜!』



 今、紺は血を吸われている。暦せつなが遊びに、いや吸血衝動に駆られやって来たのである。

 流石に妹達の前では気まずい紺は、せつなを部屋へ呼び少しだけ血を分けてやる事にしたわけで。



「ーーっ……ぱぁっ!」キラキラ


 せつなは満足気に笑顔を見せる。この瞬間以外でこの少女の笑顔はまず拝めないといって過言じゃないだろう。彼女は季節も秋後半、肌寒くなり始めた頃にはすっかり吸血が癖になっていた。


 血を吸うのが快感で仕方ないのか、それとも紺の血がただ美味いのか、理由はわからないが子供がたちまち癖になると中々しつこいものだ。


「…せ、せつな……ちゃん…ちょっと吸いすぎ…」


「…ご馳走さま。」ジュルリ…


 シャロットはそれを見て楽しそうに部屋でぴょんぴょん跳ねている。部屋とドアは少し開いている。そこから二人の妹達がじっとそれを見つめている。

 藍音は言った。


「いいなぁせつなちゃん…」


「え?藍音…?もしかして血が吸いたいの?」


 朱音は驚いた顔で言った。すると藍音は首を横に振った。


「違うよ?紺にぃににギュッてしてもらいたいだけだよ?朱ねぇねだって、そうしてほしいくせに?」


「な、馬鹿っ……そ、そんなわけないでしょ!」


 物音に敏感なシャロットは『にっしっし』と不敵な笑みを浮かべる。そして、


『オープンザドアー、なのよーー!!!!』


 二人の潜むドアをいきなり開けた。勿論二人は部屋の中に転がり込んでくる。ひとしきり転がってベッドに頭を打ち付けて止まった妹達はシャロットを睨みつけながら涙を浮かべる。


「この…」「いた…い…シャロットちゃん…」


『お?誰かと思えば紺にぃにが大好きで誰にも渡したくない藍音と、大好きだけど素直になれないツンな朱音なのよ!』


「はぅ、は、恥ずかしいっ」

「誰が素直になれないよ!もうあったまきた!藍音!とっ捕まえるよ!今日こそ簀巻きにしてやるんだからね!待てーー!!」


『追いかけっこなのよーー⁉︎のよのよのよよ〜ん!負けないのよー!』


 シャロットはいつもの小走りで部屋を飛び出した。それを追うように朱音と藍音がドタバタと部屋を出てその場から消えた。


「何だったんだ…今のは。」


「…おかわり。」


「えっ⁉︎」


「邪魔、居なくなったから。もっと…」


「あ、その……」


「……もっと……!」


 せつなは紺の身体に跨るように取り付き、首筋に噛み付いた。容赦なく、噛み付いた。そして、


 チュゥゥ…………ガクブル……



「もう勘弁してくれーー!!!!」



 真昼間の街に紺の叫び声が響いた。因みに外では神と妹達の壮絶な追いかけっこ。


 本日も当真家は騒がしすぎるのだった。そして時は過ぎ、季節は冬、十二月を迎える。






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