#40 お祭デート?否、子守!
那月環奈の件は一先ずは一件落着、といったところだ。あの後、紺が警察に取り調べを受けたのは言うまでもなく、それを助け出したのが協力者である事も今更説明するまでもないだろう。
男は逃げたストーカーを取っ捕まえてきては洗いざらい全てを白状させたのだ。
そして週末、夏休み最後のイベント、お祭りの開催日時がやってきたのだが、
紺は首を傾げている。目の前にいる空色の浴衣に袖を通した無駄に豊満な浴衣美女、九重桜の姿を見て。
「九重…?」
「あ…と、当真君、えっと…ほら、朱音ちゃんだよ。朱音ちゃんに誘われて、ね。」
「…そ、そうか。」
「あ、ほら!当真君も一人よりは少し楽になるかな?とか思って。だって…」
桜が振り返って先、つまり紺の目の前に集うのはいつものメンバー、ろりこん更生委員会のメンバー達だった。それぞれ可愛い浴衣を着て出発を待っている。
紺はこの小学生達を連れてお祭りに行くという、所謂子守を余儀なくされていたのだ。
もしかしたら桜が来てくれたのは本当に助かることだったのかも。一人で全員を面倒など見きれる訳もないのだから。
そもそも、このお転婆達が言う事を聞いてくれるはずもない。
紺は胸を撫で下ろす。そして、
「九重、助かるよ。…えっと、せっかくだから楽しもうぜ?」
「うん、楽しもうね。」
こうして朱音、藍音、凪子、みくり、環奈、せつな、そして神、といったとてつもなく個性的な妹達を連れて街で一番大きな神社のある公園へと足を運ぶ紺だった。因みに神、シャロットは姿を消している。
九重桜、彼女は比較的大人しい低学年組を、紺は超攻撃型高学年を担当している。
朱音は黄色い浴衣を着ている。丈の短めな今時のやつだ。今日も膝には絆創膏が見え隠れしている。
歩きながら凪子が、
「お兄さん、今日は何を奢ってくれるんですか?というか、奢ってくれなきゃパンチですよ?」
「お、おい、凪子ちゃん?それはおかしいぞ。」
すると、環奈も乗っかるように、
「勿論、私にも!りんご飴食べたい!着いたら早速屋台へゴーよ!わかった?下僕?」
と、いつも通り言った。環奈は闇喰から救った後もキャラがぶれず一貫して紺を下僕呼ばわりする。
とはいえ、どこか角がなくなったのは否めない。
紺に擦り寄る二人を見ては頬を膨らませるのは朱音だ。そんな朱音に見えないシャロットが耳打ちで囁いた。
『ほれほれ、お前も素直になるのよ?』
朱音は頬を赤らめ「五月蝿い!」と心の中で叫ぶ。幼女神は『にっしっし〜』とフェードアウトした。
内心穏やかではない朱音は少し皆と離されてしまった。そんな朱音に紺が言った。
「おーい、朱音?置いてくぞ〜?」
「え?う、うるさいな…ロリコン変態の紺兄に言われなくてもわかってるもん!」
朱音は足早に皆に追いついて凪子達と話しはじめる。低学年達は桜の後を、まるで親鳥を追う雛のように追う。そして、基本的に無口だ。
「あぅ…これはこれで…」
(ちょっとやり辛いよね〜…)
そして、暫く歩くと目的のお祭りエリアへ無事到着。そこは屋台が所狭しと並んでいて人も沢山いる。
朱音や藍音のクラスメイトもちらほら見かける。町の小さな祭なんてもので見かけるのは大抵いつも顔を合わせている人物なのは仕方ないことではある。
「あっ!ほら下僕!りんご飴!」
環奈は真っ赤な浴衣で紺の手を取りりんご飴の屋台へと連行する。ファンからすれば死ぬほど嬉しいこの状況も紺からすればただの子守としかとれない。
仕方なく連行されていく紺の背中を朱音はボーっと見ては「ふん」と独り言をはく。
「朱音?あたし達はあれやろうよ!」
「クジ引き?うん、行こう凪子ちゃん!」
朱音と凪子は勝手にクジ引き屋台へ走る。
「あ、おい…あまり遠くに行くなよ?…ったく…仕方ないやつらだな…」
紺は頭をかいては九重桜の様子を伺う。
祭の雰囲気でテンションが上がってきた低学年組も本領発揮といったところか。あれやこれやと連れ回されているのが見えた。
紺はとりあえず、りんご飴を人数分買って朱音達のいるクジ引き屋台へ足を運ぶ。
環奈は嬉しそうにりんご飴を舐めている。りんご飴を舐めている環奈はたちまち大人しくなった。
恐らく好物なのだろう。やはり猫は現金な生き物だ。紺はそんな事を思うのだった。
…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます