#37 ファンサービス

 


「お兄さん、かんにゃと楽しいこと、しよ?」


「ちょ、環奈ちゃん?明らかに小学生のオーラじゃないんですが⁉︎」


 四つん這いで迫る環奈から逃げるように後退る。

 そんな紺の背後には路地の壁…

 追い詰められた紺を上目遣いで見つめる環奈の瞳が赤く光り薄暗い路地裏に残像を残す。


 ゆら、ゆら、それは近づいてくる。その光を見た紺は身体の自由を奪われたかのようにへたり込んだ。

 そんな紺の身体をよじ登るように細い身体を絡める環奈からは幼女とは思えない女性の香りがする。


「…っ…かん…な…ちゃ…?」


 紺の言葉を最後まで聞くことなく環奈は、


「にゃはっ、可愛いお兄さんっ…ねぇ、ほんとはこんな事したいって思ってるんでしょ?」


(あ、明らかにおかしい…)


 紺は環奈の身体を払いのけようとした。しかし、常人とは思えない力で環奈はビクともしない。


「くそっ…なんて力…環奈ちゃん!しっかりしてくれ!」

(く…シャロットのやつ…このままじゃ)


「にゃーにをそんなに怯えるの?」


 環奈は紺を押し倒し、そして見下しては不敵な笑みを浮かべて息を荒げる。


「かんにゃは、子供じゃにゃいよ〜?もう、大人だから…お兄さんに特別ファンサービスだにゃ〜!」


 環奈はそう言って両手を振り上げる。すると鋭い爪が伸びる。その長さ十センチ弱。

 それを振り下ろされると流石にまずいと踏んだ紺は「ごめん!」と言って環奈を蹴り飛ばした。


 不意を突かれた軽い身体は路地を転がり、そのままクルッと回転しては起き上がった。

 その瞬間、環奈を取り巻く瘴気が禍々しい黒へと変わる。闇喰が完全に表に出てきたようだ。


 紺はすかさず拘束魔術を発動させる!一本、二本、しかしそれをいとも簡単にかわす環奈。

「それなら!」と、無数の鎖を召喚した紺はそれを一斉に環奈へ放つ!


 かわす、かわす、紺の魔術の軌道からギリギリでかわし踊るように舞い、そして高く跳躍する。


「…ソノカラダ、ヨコセ…!」




 色のない路地裏に、赤が散る。



 環奈は爪についた返り血をすすり、口元を緩めた。



「…にゃ…つまんにゃ。」











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