#36 ダークキャット

 


「環奈ちゃんっ!どこに…?…こっちか⁉︎」


 紺は路地裏を走り環奈を捜す。そして角を曲がった先、その行き止まりで追い詰められる環奈とジリジリと彼女に迫る男の姿を発見した。


 紺が環奈の名を呼ぶと、男はゆらりと振り返ってはケタケタを奇怪な笑い声をあげる。

 それと同時に、辺り一面が色を失っていく。


「くそっ、またかよ…」


「ちょ…下僕…じゃなくて…お兄さんっ…助けて!この人に追われてるの!」


「環奈ちゃんっ…今何とかしてやるから待ってろ!…お前!環奈ちゃんから離れろ!

 でないと、サクッと消しちまうぞ?」


 紺は魔力を解放…?…しかしシャロット不在の紺の魔力なんてものは大したものではない。


「忘れてた…くそ、肝心な時に…!しかしやるしかないだろ!」


 紺は拘束魔術を発動させる。二本の鎖が男を捉えたかに見えたが…男の背中から生えた二本の腕が鎖を引き千切る。

 紺の身体にダメージがフィードバックする。思わず膝をついた紺は男を睨み付ける。


 男はケタケタと笑い紺を見据え…四本の腕で散々殴りふせる。路地裏に鈍い打撃音が何度も何度も鳴り響き、やがてその音が止む。


 紺は前のめりに倒れ地面に這いつくばった。立とうと力を振り絞るが痛みで起き上がれないようだ。


「環奈…ちゃ…逃げ…」


「おに…い…?」


 環奈は恐怖でその場にへたり込み動けなくなってしまった。そんな彼女に一歩、また一歩と迫る、


 男、男、、おとこ、、、


 男の腕が環奈の四肢を掴み拘束する。必死の抵抗も虚しく壁に押し付けられた彼女を今度は地面に叩きつける。


 環奈の小さくて細い身体が無残に地面を跳ねる。


「ゔぁぅっ!」


 倒れた環奈に覆いかぶさった男、もとい、闇喰は口を大きく開いた。するとそこから真っ黒な瘴気が溢れ出してくる。


 瘴気は環奈の小さな口をこじ開け、器へと侵入していく。紺は手を伸ばす。しかし、届かない。

 痛む身体に鞭を打ち、何とか立ち上がった紺は走った!しかし、時すでに遅しだった。


「ふふっ…お兄さん…かんにゃと遊ぼ?」



「なっ…環奈…ちゃん…?」



 環奈は闇に憑かれた。そして内にいた猫が表に出てきたようだ。四つん這いになり一歩、一歩、と紺に迫る環奈の表情は狂気に満ち溢れ、そして妖美な瘴気を放つ。


 ダークキャット、といったところか。


「くっ…シャロットはまだかよ⁉︎」


 闇が抜けた男は気を失い地面に転がっている。その男を右手で掴んだ闇猫はとてつもない力で男を投げ飛ばした。男は壁に身体を打ち付けては目を覚まし、情けない鳴き声をあげてその場から去っていった。


「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い…ルールを守れないファンにゃんて…

 でも、お兄さんは違うよにゃ?にゃはっ…」


 それは狂気の笑みだった。










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