#27 JS相談室


 全員で海へ出掛けてから二日、紺の身体は筋肉痛に蝕まれていた。普段の運動不足が完全に仇となったわけだ。

 そんな情けない兄はさておき、妹の朱音は凪子と環奈の三人で映画に出掛けて行った。


「今日は少し遅くなるから、くれぐれもシャロットに襲われないように!わかった?藍音もちゃんと見張っててよね?それじゃ、行ってくる〜!」


 白いシャツに短いスカートの朱音はそう言って家を出て行ってしまった。

 家に残ったのは紺、藍音、そして幼女神シャロットの三人だ。紺はリビングのソファーに寝そべりながらクーラーの温度を下げる。

 とにかく暑い。そしてセミの鳴き声で外が異常に騒がしい。テレビの音量も自然と大音量になってしまう。


 藍音とシャロットは仲良くプリンを食べながら紺の寝そべるソファーの前にちょこんと座ってテレビを見ている。

 テレビでは夏の心霊スポット特集という番組が放送されている。藍音は震えながら、時々身体をビクッとさせる。怖いなら見なければいいのだけど。


 そんな時だった。チャイムが鳴る。

 来客か。一向に動く気配のない二人の少女。紺は仕方なく痛む身体を起こし玄関のドアを開ける。


 そこにいたのは来未みくりだった。みくりは少しモジモジとして「こ、こんにちは。」と小さな声で言った。


「あー、みくりちゃんか。藍音ならリビングにいるから上がりなよ。」


「あ、あの…いえ、き、今日はお兄さんに用事があって…その…相談が…」


「…え…俺?…相談?」


「…はい…あ、め、迷惑ですよね…その、や、やっぱりいいです…わ、忘れて下さいっ!」


「あ、いや…別に聞いてもいいけど?暑いしとりあえずあがって。」


「あ、はいっ…!お邪魔します!」



 こうしてみくりはリビングへ。藍音は当たり前のように「今日はみくりちゃんが来た!」とか言って喜んでいる。みくりは優しく微笑んで紺に相談がある旨を伝える。

 藍音はそれじゃまた後で遊ぼうね、とシャロットのいるテレビの前へ帰って行くのだった。


 ダイニングテーブル、対面で向き合った紺とみくり。みくりはその消えそうな掠れた声で話し始める。


「…お、お友達のことなんだけど…」


「友達?藍音やせつなちゃんの事?」


「ううん…違うお友達。その子、そろそろ帰らないといけないんだけど…中々帰ってくれないの。」


「…えっと…」


「みくりは何度も帰らなきゃダメだよ?って言ったけど、みくりの側を離れてくれなくて…みくりもそれ以上キツくも言えないし…でも、ちゃんと成仏しないと…わ、悪い子になっちゃうんだ。」


「…え、その…帰るって何処に?」


「…?…天国だよ?」


「あ…はい…そっちのお友達か…還る、ってことね…」



 みくりの話によると取り憑いた霊達はいつかは成仏しなければいけないのだとか。そしてその成仏の時が過ぎているのにもかかわらずみくりに取り憑いて離れない霊がいるようだ。

 その霊はかれこれ五年は付き合っている一番長く共にいた友達だ。


「どうすればわかってもらえるかなって…」


 成仏をせずにいるとその霊は悪霊化する。みくりはそうならないように成仏を促して来たのだが…どうにも離れてくれないようだ。

 正直言って、紺にこの問題を何とかする術など無いに等しい。


「はぁ…どうしたもんだろうね…」


 しかしみくりがこれだけ真剣に自分を頼ってくれているのだ。最初は更生委員会として発足したこの集まりももはや何でもありになった。

 紺はその事をシャロットに相談してみることにしたのだった。



 

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