#26 男と幼女



 暑い太陽に照らされながら大胆に肌を露出させ、海水浴を楽しむ人混みを縫うように歩くのは紺と桜の二人だ。

 波の音が聞こえてくる。騒ぐ声の中に朱音や皆の声も混ざる。


「あっ桜姉!こっちこっち~!」


 楽しそうに手を振るのは朱音だ。そんな彼女の顔に海水をかけるのは凪子と環奈。三人共、子供みたいにはしゃいでいる。いや、子供だ。

 その横ではのんびりタイプの三人組がお風呂で半身浴をするように水に浸かり波にうたれて頬を染めている。何を考えているのかは彼女たちしか知らない。


 紺が呆けていると凪子が海水を二人に浴びせる。不意に水を浴びた紺と桜は思わず目を瞑る。


「こんのやろー!やりやがったなぁ!」


 紺は彼女たちの真ん中に飛び込む!そのしぶきを浴びた朱音、凪子、環奈の三人は紺に一斉攻撃を仕掛ける!無邪気に遊ぶ紺の姿を見つめながら微笑む桜はゆっくりと海に浸かった。


 その瞬間、桜の顔面に海水が直撃する!


「ふにゃぁっ!!」


「ボーッとしてる場合じゃねーぜ九重?ここは戦場だ!おらおら!」


「きゃっ!と、当真くんっ…む~!やったなぁ~!仕返し!」


 桜はたわわな果実が激しく揺れるのも気にせず両手で反撃を開始した!

 少し気まずかった雰囲気もいくらかマシになったか。


「ちょ、ちょっと紺兄っ⁉︎どこ触ってんのよ!」


「なっ⁉︎どこも触ってねーよ!…ん?この柔らかなものはなんだ?」


「それは私のおしりだぁっ!!!!」


 環奈のグーパンが炸裂!更に、


「お兄さん!環奈は触ってあたしには触らないってどーいう事ですか!ふんっ!」


 凪子の鉄拳がクリティカルヒット!紺は砂浜までぶっ飛ばされてしまう。そんな姿を見て桜は思わず大声で笑ってしまった。すると朱音達もクスクスと笑った。


 これだけ騒がしくてもペースを乱さないのはこの三人だ。


「ひんやりしてて気持ちいいね…」と、みくり。


「うん…このまま海になってしまっても悔いはないかも。」

 藍音はサラッととんでもないことを口にする。


「…すぅ…すぅ…」


 せつなに至っては浮きながら眠ってしまう始末だ。そんな姿を見たみくりは、


「せつなちゃん…楽しそうだね~」


「うん、そうだね。」


「すぅ…すぅ…」




 散々はしゃいだ一行は一旦昼休憩を挟むことにした。お昼は海の家で済ませ、午後もひたすら海ではしゃいだ。

 そして空が赤く染まり始めた頃、紺はシャロットがいない事に気付く。


「あれ…?アイツ何処に…」


 紺は少し気になりシャロットを探す事にした。妹たちを桜に任せて一度その場を離れた紺。

 仮説トイレ、海の家、砂浜、大方探して回ったがシャロットの姿は見当たらない。


 紺は砂浜から離れた船の発着場へ足を運んでみる。夕日が海に沈んでいくのがよく見える、そんな場所でシャロットの姿を見つけた紺だった。

 シャロットは人気の無い発着場で誰かと話をしている。男、スーツ姿の男だ。

 そんな細身の男が何を話しているのか紺には聞こえない。顔も逆光ではっきり確認することが出来ない。紺が様子を伺っていると信じ難い光景を目の当たりにすることとなった。


 シャロットの前にいた男は溶けるように姿を消したのだ。まるでこの世界自体に溶け込むような、そんなイメージの消え方だった。

 背後の気配に気付いたシャロットは振り返る。


『のよ?…もう帰るのよ?』


「おう、昼食ってからずっといないと思ったらこんな所にいたか。帰るぞ。」


 紺は敢えて聞かなかった。男の存在について。おおよその検討はつく。恐らく彼が協力者だろう。


『わかったのよ。』


「つーかさ、お前ってもしかして泳げないの?」


『のよっ?そ、そんなこと、ないのよ?』


「だってずっと水に浸かりもせずにプリンばっか食ってたし。」


『わたちは神なのよ!泳げない訳はないのよ!ただ、水に濡れるのが嫌いなだけなのよー!』



 紺はそんな言い訳に気の無い返事をしてシャロットと共に皆の元へ帰るのだった。



 …

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