#23 ガチンコ対決
「さ、お兄さん?お兄さんの中、あたしに見せてよ?その身体、あたしにちょうだい?」
「ぐっ…あぁっ…ゔぁぅっ⁉︎」
凪子の手のひらが紺の胸に吸い込まれるように溶け込む。紺の身体を今まで感じたことのない痛みが襲う!
それと同時に、凪子の記憶が流れ込んでくる。
他人が知るべきものではない、凪子の傷は、
想像を絶する、記憶だった。
「ぐああぁっ⁉︎なぎ、こ…ちゃ…ゔぁっ⁉︎」
もがく紺を見て身体を震わせる凪子はゆっくりと顔を近付ける。
その時だった!
「ごめん凪子ちゃん!こんのぉぉっ!」
凪子の身体は紺から離れ数メートル先に激しく転がっていく。
朱音の強烈な蹴りが凪子を吹き飛ばしたのだ。
「はぁっ、はぁ…目を、覚ましてっ!」
凪子はゆらりと立ち上がり、虚ろな瞳で朱音を見る。見たと同時に、風に乗り一気に距離を詰めた!
「はっ⁉︎速いっ⁉︎」
『火の壁を張るのよ!』
「わ、わかった!えいっ!」
朱音の前に小さな火の壁があがる。凪子は急停止して、一度距離をとる。
「あははっ朱音?もしかしてあたしと闘うつもり?悪いけど、朱音じゃあたしには勝てないよ?」
「そ、そんなの…やってみないとわかんないよ!」
「そう…なら勝負だね。あたしの拳が勝つか、それとも。朱音の脚が勝つか…勝った方がお兄さんを好きにするってのはどうかな?」
「す、好きにって…そんなこと、させないんだから!友達だから、だからこそ本気で止めてみせる!私の凪子ちゃんは…そんなに楽しそうに人を殴ったりしない!あんたはただの闇よ!」
「…お前の身体も、中々だなぁ?」
凪子の雰囲気が変わった?
「なら、どっちかが死ぬまで…やり合うしかないよなぁぁっ!」
凪子は神速の速さで再び懐に入る!そして朱音の頬に強烈な一撃をぶちかます!
「くあぁっ⁉︎…や、やったなぁっ!」
踏ん張った朱音はお返しとばかりにこれまた強烈な回し蹴りを凪子のこめかみにぶちかます!
「ゔっ…えぇりゃぁぁっ!」
「うああぁっ!」
女の子の喧嘩とは思えない激しすぎる殴り合いが繰り広げられる…
紺は朦朧とする意識の中、そんな壮絶な殴り合いの行く末を見守っている。
色のない校庭に、殴り合う音だけが鳴り響く。
凪子の拳が朱音の顎を…
朱音の脚が凪子の顎を、同時に捉えた…!
…
二人は同時にダウン…
校庭は静まり返るのだった。
…!!!!
紺の頭の中にシャロットの声が流れ込んでくる。しかしノイズだらけでちゃんと聞き取ることが出来ない。
『ーーのうーにーーみをーー!』
集中する。声に耳を傾けてみる。…するとノイズが消えていく。
『今のうちにに闇を引きずり出すのよ!』
凪子の身体から瘴気が漏れる。かなりのダメージを負ったことで闇が堪らず外へ姿を現したのだろうか?何はともあれ、この機会を逃す手はない。
紺は身体にムチを打ち立ち上がる。膝の力が入らず何度も転びそうになりながら何とか凪子の元へ向かうのだった。
すると倒れた朱音の身体から、ポン!とシャロットが飛び出して来た!
『あちちち~なのよーーっ!』
シャロットはそのまま紺に飛びついた。シャロットの小さな身体はとても熱い…
属性持ちの身体に溶け込むということはそれだけの負担があるようだ。
だから無属性の身体を探していたのだろうか。
「…ぐっ…シャロット…」
『朱音のおかげで少しばかり回復したのよ…!熱かったけど…ロリ紺、もう一度なのよ!』
「わ、わかった…!…目、瞑れよ。」
二人の唇が再び重なり合う。屈んだ紺と、背伸びをするシャロットは一つとなる。
「よし、朱音の頑張りを無駄にはできないからな…凪子ちゃん、少しお仕置きだな。」
紺は拘束魔術を発動、倒れた少女の手首に鎖を絡め無理矢理立たせる。
意識を失った少女は力無く俯いている。
側から見れば犯罪です。
凪子の胸の辺りから闇が漏れているようだ。そいつを掴めば、後は藍音の時のように打ち消すだけ。
「だが…しかし…」
『やるしかないのよ!この子の為なのよ!』
「…あぁ、わかってる。」
しかし紺は躊躇する。彼女の記憶を垣間見た紺は、彼女の身体に触れることに抵抗があった。
心臓が激しく鳴るのがわかる。
別れた父は最低の男だった…紺はそれを知ってしまった。彼女の幼少期にあった虫唾が走るような出来事を思うと手が伸びないのだ。
紺は意を決してゆっくりと手を伸ばす。凪子にすまないと謝りながら彼女の胸に、手を伸ばす。
紺は凪子の膨らみかけた小さな胸に触れ、微かに漏れ出した闇を…
掴んだ。
「ゔぁぅ⁉︎」
痛みで意識を取り戻す凪子の身体がびくんっと反応する…
鎖が音を立てる…
「お…にぃ、さ、ん?…やっぱり、おにいさ…んは…」
「…捕まえた…!魔力、解放…!」
限りなく黒に近い光が一面を照らし、凪子の闇を打ち消す。一瞬の出来事だった。
紺は凪子の制服のボタンをかけなおしてやり、二人を抱き上げる。
幼神シャロットは紺から飛び出して先ほどの紺の光でヒビ割れた結界を見渡す。
「結構めちゃくちゃになっちまったな…」
『心配いらないのよ。事後処理は滞りなく、なのよ。お前は二人を連れて先に帰るのよ。』
「お前はどーするんだ?」
『わたちにはもう少し仕事があるのよ。さ、わかったら行くのよ。のよよん、ぱっ!』
謎の掛け声と共に現れた小さな扉はギィィ…と音を立てて開く。
『この先は我が家なのよ。この技は体力を消耗するから早く行くのよ、幼女二人を雨の中抱いて歩いてたらケーサツに捕まってしまうのよ。』
「…たしかに…すまんシャロット。用が済んだらお前も帰って来いよ?」
『わ、わかったのよ。』
…
『…さて、今回は少しばかりやり過ぎたと思うのよ?』
「…お前がちゃんと仕事すれば問題はない。」
『…怪我人の記憶と、事後処理は任せるのよ。』
「破損の修復もな。…くくっ…」
『な、何がおかしいのよ…?』
「いやいや…人間らしくなったな、
と、思ってな。くくっ…」
校庭にケタケタと不快な笑い声が響く。
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