#22 禁断のキス



 シャロットを校庭から排除した凪子はゆらり、ゆらりと、倒れる紺の元へ歩く。


 うつ伏せに倒れる紺の身体を反転させた凪子はその身体に跨るように覆い被さる。

 ほぼ下着姿の凪子の軽い身体が紺に密着する。


 凪子は息を荒げ、頬を染める。


 そんな凪子の息遣いは紺のすぐ側まで迫る。凪子は紺のシャツのボタンを、一つ、また一つと外していく。


 そして露わになった男の胸に小さな手のひらを当てる。とても冷たい手のひらは小さく震えている。


「お兄さん、逃げ…て…」


「…凪子…ちゃんっ⁉︎」


「はや…く…あたし、お兄さんを…殺しちゃうっ…はやくっ…!」


「意識が…だ、大丈夫か凪子ちゃん⁉︎俺がわかるのか?」


「…し、知るかしるかぁっ⁉︎黙れ黙れだまれ!はぁっはぁっ…お前の器、貰い受け…ぐぁっ…にげ、て…ゔぁぅっがぁっ!邪魔するなぁっ…男なんて死ねばいいんだろーがぁっ!…お前の父親と同じなんだよ!そうだろ?だから殺せ!ころせ!殺せ!殺しちまえよ!」


 跨ったまま支離滅裂な言葉を並べる凪子は頭を抱え額を紺の胸に擦り付ける。そして何度も、何度も額を打ち付けはじめる。


 言葉にならない奇声をあげながら、何かに抗うようにもがく。


 やがて、その動きは止まり、落ち着きを取り戻した凪子。彼女は口を開く。



「さ、お兄さん。あたしとキスしよ?きっと気持ちいいよ?お兄さん、好きなんだよね、小さな女の子。…好きにしてもいいよ?


   …死ぬ前に、一度だけ…な。」



 紺は恐怖した。しかし散々殴られた身体は限界をとうに超えている。






 ………



『ふにゅぅ…』



「な、何してんのよ…こんなところで…」



『…のよ?…お前は…朱音?…どうして…?』



「あまり私をなめないでよね。あの変な結界の力が弱まったことに気付かないような馬鹿ではないんだから。打ち消すのに魔力だいぶ使ってしまったけどね…」


 校庭から排除されたシャロットの前に現れたのは朱音だった。身体はかなり疲弊しているように見える。シャロットの結界を打ち消すことに魔力をかなり消費したのだ。



『にゅ…やばいのよ…紺が、凪沙凪子に殺されてしまう。…あの馬鹿ロリ紺はお前の友達には手を出せないって…攻撃もせずに全部受け止めてしまったのよ…おかげのこのざまなのよ…』


「シャロット…あんた凄いボロボロじゃない…ほら、手かしてあげるから。立てる?」


 朱音はシャロットの手を引き身体を起こしてあげる。シャロットの衰弱はかなりのものだと見ただけでもわかるくらい弱々しい。



『…朱音…お前にお願いが…ある…のよ…』


「…な、何よ…そんな泣きそうな顔しないでよ…似合わないから。」


『わたちと…キッスするのよ…』


 朱音は抱き上げたシャロットを放り投げた!



「はぁ?なんでよ⁉︎嫌!」



『いたた…ぅぅ…』


 幼神シャロットは力無くうなだれて言葉を失ってしまった。何かを諦めたような表情に朱音は、


「ご、ごめん…」と呟いた。


「キス…したら…私も紺兄みたいに闘えるの?」



『はぁ…はぁっ…お、まえの朱色は燃える炎…合体するとわたちは熱くて長くは保たないのよ…でも…今はそれしか…ない…』


 顔をあげ、小さく震える幼女を見た朱音はそんなシャロットを抱き上げた。

 シャロットは軽く、そしてとても柔らかい。



「ど、どうすれば…いいの…?」



『はぁ…はぁっ…』


 シャロットは言葉を発することなく、ただ苦しそうに息を荒げる。


 朱音の心臓が激しく鳴る。キスなんて、誰ともしたことない。ましてや、同性と…




 (迷ってる暇はないよね…)




 朱音はシャロットの小さな唇に、自らの唇を重ね合わせる。小さな身体が震えている。


 幼女は朱音の身体をギュッと抱きしめ、


 朱音の中へ。


 絡まる舌、その感触が朱音の意識を朦朧とさせる…


 幼気な少女に、


 未体験の快楽が襲いかかる。



 朱音は小さな身体をびくっと震わせながら、知らぬ間にシャロットの身体を強く抱きしめていた。



「はぁっ…ぁっ…んんっ…」



 やがてシャロットは光となり、燃え盛る朱色の器に身を投じた。二人の幼女が一つになる。



 ボヤけていた視界は、次第にクリアに。



「…す、凄い…魔力が溢れてくる…」



『あ、あちち…!あ、あまり長くは保たないのよ…はやく校庭に入るのよっ!』


「私の中に…わ、わかった!今は一刻を争うんだよね!私に任せて!私だって…


     …正義の味方になれるんだから!」






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