#19 嵐の夜はキッスなのよ
「雨、降ってきたね…」
藍音が窓から激しく降る雨を眺めている。バチバチと、窓を打ち付けるほどの激しい雨だ。
「凪子ちゃん、家に帰れたかな?」
まだ日は長い季節だが、今日は既に真っ暗だ。激しく降る雨と風が窓をガタガタと揺らす。
「…それにしてもよく降るな。」
『なのよ!』
「なんかもうあんたの存在、当たり前みたいになったね…」
朱音は当たり前のように共に暮らす幼女に含みのある口調で言って夕飯の支度をはじめる。
『連れないこと言うななのよ?あ、あ~?もしかして~?にっしっし…ロリ紺をわたちに取られてやきもちをやいてるのよ?のよよ?』
シャロットは極めて憎たらしくぴょん、ぴょんと跳ねる。腰の赤い水筒もそれに合わせて跳ねる。
「うぬぅ…シャロットは夕飯抜き。」
『それは勘弁なのよーーっ!』
すっかり馴染んでしまった神、シャロット。そんなふざけた幼女がふと動きを止めた。
そして、ぴょんと跳ねる。
銀白色の髪がピンと跳ねる。アンテナのように、一箇所だけピンと。
『のよ…のよのよのよ…?』
「どう…したの?シャロットちゃん…?」
藍音がおかしな動きをし始めたシャロットに言ったが、シャロットはその言葉が聞こえないのか辺りをキョロキョロと見渡している。
「おい、幼女、何事だ?」
『ロリ紺!』
「え、何だよ…⁉︎」
『今すぐキッスなのよ!』
「はぁぁ⁉︎」「はぁ~?」
紺と朱音が同時に叫ぶ。藍音はそれを見て、「ハモった!」と嬉しそうに笑う。
『…はぁ、人使いの荒いことなのよ…』
「何ブツブツ言ってんだ…?」
『しのごの言わず、キッスなのよ!』
シャロットは、ぴょ~んと紺に飛びつこうと跳んだ!しかしそれは朱音が許さない!
サッとカットインした朱音は躊躇なくシャロットに強烈な一撃をお見舞いしたのだった!
シャロットは、ぽよよ~んと跳ねるようにリビングの床を転がり冷蔵庫にぶつかって止まる。
その衝撃で開いた冷蔵庫からは大量のプリンが雪崩のように転がり出てきた…
『ぬぬぬ…お前、わかってないのよ!…キッスは遊びじゃないのよ?邪魔するななのよーー!』
シャロットはぴょんと立ち上がっては悔しそうに地団駄を踏むと、潤青色の瞳を揺らめかせる。
フローリングの茶色、冷蔵庫の白、ソファの緑、その全ての色がモノクロと化す。
それと同時に朱音と藍音の身体の動きを封じられてしまう。
「お、お前…」
『さ、行くのよ。凪沙凪子が闇に囚われて暴走をはじめたのよ。藍音の時の比じゃないのよ。止めないと大変なことになるのよ。』
「…な、凪子ちゃんが…?藍音の時みたいに…って…おい、幼女、なんで凪子ちゃんが…⁉︎」
『幼女じゃないのよ、シャロットなのよ!それは今回無事に帰ってこれたら説明してやるから今はとにかく急ぐのよ!』
「わ、わかった…案内しろ。もし本当だったら、あの時みたいにその闇を打ち消せばいいんだな。」
『…まぁ、そうなのよ。…付いて来いなのよ!』
…静寂が流れる。藍音は動かない、色を失った部屋には雨音すら聞こえない。
朱音は動かない。紺とシャロットが出て行った部屋にはただ、静寂だけが流れるのだった。
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