#13 朱音の忘れもの



 当真家の朝は慌ただしい。


「藍音?お弁当持った?ランドセルに教科書入れた?」


「うん、だいじょーぶ。行こう、朱ねぇ。」


「よし、それじゃ私達は学校行ってくるから…紺兄はくれぐれも…わかってるよね…?」



 朱音の言いたい事はおおよその検討がつく。


「わ、わかってるよ朱音…唇は死守しますので…どうぞご心配なく…」


『わぁーい、ロリ紺と二人きりなのよ~!楽しんでおくからご心配なくなのよ~!』


「お前は黙ってろ…」





 二人の妹達が学校に出掛けると紺はカゴに溜まった洗濯物を洗濯機に放り込む。やけに重い。

 自動運転のスイッチを押すと斜めドラムの洗濯機は稼働を開始した。


 その間に朝食で使った食器を洗い、リビングの掃除をする。…プリンの空容器があちこちに落ちている。…シャロットの仕業だ。


 紺は頭を抱えその空容器をゴミ箱へ。「プリン専用のゴミ箱を買った方がいいか。」と独り言を漏らした紺はやっとの事でリビングのソファに腰掛けるのだった。


「ふぅ、藍音も元気になったし…って、あっ…」





 紺は稼働停止した洗濯機から洗濯物を取り出し乾燥機の中に放り込む。


『のよよ~…目が回ったのよ…』


「いないと思ったら、洗濯物と一緒に回ってたのかよ…一緒に乾燥機も入っとくか?」


『遠慮するのよ…』


「ちょっと俺は出掛けてくるけど、お前はどうするんだ?家にいるか?」


『い、一緒に行くのよ~!』


「言っておくが、朱音の弁当を届けに行くだけだからな?」



 そう、珍しく朱音は自分のお弁当を忘れていったのだ。しっかり者の朱音でもこんな時があるんだなと紺はその弁当箱を手に取る。





 …

「おい、幼女。自分の足で歩け。」


『嫌なのよ。』


 シャロットは紺の身体にぶら下がる。そして身体をよじ登り肩車の体勢で落ち着いた。


「せめて姿は消しておけよ?お前の説明、困るんだからさ…」


『わかったのよ。にっしっし~』



 学校まではもう少しかかる。紺は藍音に起きた現象について聞き出してみることにした。

 色々バタついていたのもあり折り入った話は出来ていなかったからだ。



『アレは闇喰やみくいなのよ。人の心の隙に付け入ってその心の闇を喰らう、闇の存在なのよ。』


「闇を喰う、闇?」


『そうなのよ。闇喰は人間の中でも変わり者を好んで喰らうのよ。魔術師の家系の娘とくれば、格好の獲物ということなのよ。』


「それで落ち込んだ藍音が狙われたってことか。しかし変わり者ってなると、更生委員会のメンバーは全員変わり者だよな。」


『………』


「ん?どうした急に黙って…って、何だよ…器用に眠ってやがる…ったく仕方ない奴だな…よっと」


 紺は眠るシャロットをおぶる形で朱音達のいる学校へ向かって歩くのだった。

 背中に顔を埋める幼女の口元が緩んでいた事に気付くことはなかった。



 こうしていると、妹が一人増えたような気分になった紺だった。

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