#12 朱音の憂鬱

 

 当真朱音、彼女は今をときめく小学五年生。

 好きな食べ物は、


 あたりめ。





 …


 あの事件から三日、そんなあたりめが好物の朱音は友達の凪子、環奈と共に下校中。


「藍音ちゃん、まだ調子悪いの?」


「うん、だいぶ良くはなったんだけど、大事をとって学校は来週からにするよ。」


 藍音はあの後体調が優れず学校を休んでいる。下校時間もいつもなら藍音が隣にいた。


 いつもなら、藍音がいたのだけど。


「はぁ…」


 朱音は聞こえないくらいの小さなため息をつく。


「私、あの日の事あまり憶えてないや…」


 そう環奈は言う。環奈だけではなく、みくりも同じようなことを言っていた。






 …

「た、ただいまぁ…」


 今日はいつになく騒がしい。




『のよよーーっ⁉︎なんで怒るのよー!』




 そう、あの日から幼神シャロットは堂々と家に住み着き生活しているのだ。

 そんな幼女は何やら紺と言い争いをしているようだ。



「俺は今日の夕飯の食材を買って来いって言ったんだ!誰がプリンを買えるだけ買えと言った⁉︎どーすんだよこの山のように積み上がったプリンは!」


 シャロットの頬っぺを両手で摘み思いっきり伸ばすのは兄の紺だ。


『むにゅにゅぅっ…プリンは立派な食材なのよーーっ!心配しなくてもわたちが全部食べるから安心しろなのよ!にゅぅ』


「何が食材じゃ!おやつだろーが!…俺が藍音の側を離れられないから頼んだってのに…ったく、昨日まではちゃんと買って来てくれたのに何故突然魔がさした⁉︎このちんちくりんがぁ!」


 紺はシャロットの頬っぺを両手で挟み込んでやる。


 シャロットが夕食代を全てプリンにつぎ込んだようだ。

 朱音はドタバタと言い争う二人を呆れた表情で見ている。そしてため息を一つつき、藍音の眠る部屋へ足を運んだのだった。




「藍音…?…入るよ?」


 朱音はそっと扉を開ける。藍音は大好きな絵本を抱いてスヤスヤと眠っていた。朱音は掛け布団を肩まで掛け直してあげた。

 そして枕に押し当てられ形を変えた極上の頬っぺを優しく撫でる。


 朱音はすやすやと眠る藍音を見て表情を曇らせた。藍音に嫌われてやしないかとため息をつく。




「あか、ねぇ…だい、すき…にぃ…にも…」


 朱音はとても嬉しかったのか、思わず笑った。それが夢の中でただの寝言だとしても、朱音にとって藍音は大事な妹だから嬉しかったのだろう。




 こちらはリビング。


『のよよっ⁉︎プリンを返品して来い⁉︎い、嫌なのよ~っわたちが全部食べるのよ~っ!絶対ぜったい嫌なのよーーっ!』


「だぁっ、くそっ…もういい…はぁ…どうすんだよ…夕飯…」


 言い争う二人の横を通り過ぎた朱音は冷蔵庫の中を確認する。


 …プリンだ…


 辛うじて封のあいた賞味期限ギリギリのウインナーと卵が一つ、調味料はキッチンに完備されている。


「チャーハンくらいなら作れるよ、紺兄…」


 朱音はやれやれといった表情。


「ほ、ほんとか朱音⁉︎」


『はむっ…幼女のくせに、はむ、中々女子力が高いのよ、はむっ。』


「ちょ…あんたの分も作ってあげるから…プリンは食後にしなさい。そして後で一つわけて。」


 幼神シャロットはキョトンと首を傾げ、『絶対嫌なのよ!』とぴょんっと跳ねる。



「はぁ?一つくらいくれてもいいじゃないのっ!ケチ!ってかうちのお金で買ったプリンでしょーがっ!待ちなさいよ!」


『わぁ~い、逃げるのよ~!』


 ぴょん、ぴょんと跳ねるようにリビングを走り回るシャロットを追いかけるが一向に捕まらない。


『遅いのおそいのよ~、隠れるのよ~!』



 シャロットは椅子に腰掛ける紺に飛び付いた!そして…


「なっ…幼女っ⁉︎おまえまさかっ⁉︎」


『後は任せたのよ~っむちゅ』



 シャロットは紺の唇を塞ぐ。そして溶け込むように紺の身体に逃げ込んだのだった。

 その際生じる謎の快楽で頭がクラクラする紺はふと目の前の殺気に気付き顔をあげる。



「…よくもまぁ…毎日のように妹の前でチュウチュウと…こんの、変態っ!」


 この後、紺がどうなったかはもはや説明するまでもない。



 …

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