#11 チュウと合体と○○
藍音は魔力暴走を起こしていた。
魔力暴走とは魔術師や魔法使いなどの魔力を有する者が自らの魔力を抑えきれなくなった時、或いは人為的な何かがきっかけで魔力の制御を破棄した時に起きる非常に厄介な現象だ。
そして藍音のそれは後者と推測される。
過去に朱音が魔力暴走を起こしたことがあった。朱音が小学校に入学したその日の夜だった。その時は父親が近くにいたことですぐに暴走を止めることが出来たのだが今回は父親に頼るわけにもいかない。
あの家族想いの優しい女の子はそこにはいなかった。生気のない輝きを失った虚ろな瞳で、一歩、足を踏み出す藍音。
一歩、一歩、ゆっくりと。
「くっ、朱音!環奈ちゃんとみくりちゃんを頼む!何か嫌な予感がする!」
「こ、紺兄…わ、わかった…!…藍音…魔力が暴走してるみたい…気をつけて!」
「あぁ、俺に任せろ…」
紺はゆっくりと藍音に近づいていく。
一歩ずつゆっくりと距離を詰める。藍音はふいに立ち止まり近付いていく紺を見据える。
彼女を取り巻く闇の瘴気はその形を変えて近付く紺を威嚇しているかのようだ。
『ロリ紺、コレはお前が太刀打ち出来るモノではないのよ!わたちと合体するのよ!闇が表に出ているのはこちらに都合がいいのよ!』
「うるせ!コレとか言うなっての!藍音は俺の妹だ!俺がこの変な瘴気を打ち消してやる!」
紺は藍音に声をかける。しかし反応はなく瘴気は更に激しく揺れ動き威嚇する。
それならともう一歩、前へ
ーーーー!
瞬間、身体はくの字に折れる。
突然襲った激痛、紺の身体は何らかの衝撃を受け吹き飛び地面を滑るように転がっていく。
「ぐぁっ…」
『だから言ったのよ!お前一人では無理なのよ!藍音は闇に侵食されているのよ!闇を無力化するには直接闇を攻撃するしかないのよ!』
「闇を…?無力化…だと…」
『お前とわたちの力を合わせれば何とかなるのよ!迷っている暇はないのよ?』
「はぁ…俺は…どうすればいい?」
『わたちとキッスするのよ?』
「は?なんでそうなるんだっ…⁉︎」
『お前はわたちと契約したのよ?拒否権はないのよ、男なら黙ってキッスなのよ!』
「全く意味がわからん…」
二人が言い合っていると藍音を取り巻く瘴気が更に激しく渦巻きはじめた。
それを見たシャロットは紺の前にぴょんと立ち、『のよよ~!』と謎の掛け声をあげる。
潤青の瞳がキラリと光ったと同時に夕焼けの空が灰色に変わってゆく。いや、空だけではない…周りの木も、神社の祠も、地面も…
人以外のモノが全て色を失う。
すると藍音を取り巻く瘴気は人の腕を形どりそれは次第に数を増やす。そして無数の闇をまとう魔手が視界を埋め尽くすのだった。
『時間がないのよ、いくのよ?』
シャロットはぴょんと紺に正面から抱きついた。
「…っ?…お、お前っ⁉︎」
『しのごの言わず、チュウなのよ!』
幼女の唇が、紺の唇を塞ぐ。
問答無用で紺の唇を塞いだ幼女の身体が光を放つ。
紺の身体に謎の絶頂感が広がり力が抜ける。幼神シャロットが光の粒となり紺の身体に染み込むように溶け込んでいく。
「…紺…にぃ……っ」
朱音は言葉を失った。そして目の前で行われるその行為から、目を背けた。
シャロットは紺に文字通り溶け込む。
そして二人は一つになる。
ボヤけていた視界は次第にクリアになる。
紺は目の前の藍音を見る。
そして右手をあげ拳を握ってみた。自分の意思で動く。魔力は安定している。それどころかいつもより高まっているようだ。
「俺の魔術なんて大したもんじゃない…」
実際、紺色の魔力というのは闘いにはあまり向かない魔力である。簡単な拘束魔術くらいなら使えるのだが今の状況でそれが役に立つのかは正直不明だ。
しかしやるしかないと紺は拘束魔術の詠唱を始める。
これを使うのは久しぶりだ。朱音と喧嘩になった時に一度だけ咄嗟に使ったが後で父親に告げ口をされこっ酷くしぼられた。
紺としてはあまり使いたくない魔術だ。
「藍音!少しだけ我慢しろよ!」
紺は暴走する藍音に拘束魔術を放つ!
二つの魔法陣が紺の背後に浮かび上がる。するとその魔法陣から紺色に光る鎖が二本伸びる。
鎖は藍音の両手首に絡みつき、捉えると同時にピンと張る。藍音は両手の自由を奪われた。
思った以上に効果を発揮した事に驚きの表情を浮かべる紺は自分の手のひらを見て首を傾げた。
『まさか妹に拘束具を使うなんてやっぱり変態なのよ~!』
「お前は黙ってろ⁉︎拘束魔術だ!拘束具言うな!」
動きを封じたものの依然瘴気は暴走、
闇をまとう魔手は紺を捉えようと一気に迫る。
全方位から伸びる魔手を何とかかわした紺は一気に距離を詰めようとした。
しかし地面を砕き、後方の木々を薙ぎ倒し、神社に建てられた石版すら粉砕するソレは攻撃の手を休める気配がない。
紺は距離をおき、少しずつ距離を詰めるべく様子を伺う。普段より身体が軽く数倍の速さで動けるどころか身体能力全般が格段に向上しているからこそ、目にも留まらぬ速さで襲い来る魔手をかわすことが出来るのだ。これが神と融合することで得られる力だ。
『これが神の力なのよ。わたちも器に入ると本来の力を出せるのよ。』
「幼女!この厄介な腕、なんとかならねーか⁉︎」
『幼女じゃなくてシャロットなのよ…!この腕が闇の本体なのよ。闇は藍音の魔力を纏うことで力を増しているのよ。闇には属性は効かないのよ、だからお前の無属性が役に立つのよ!魔力を解放してあの腕を片っ端から倒すのよ!わたち、その為にお前と契約したのよ?闇を討つのに一番適した属性のお前を探していたのよ。』
「無属性の魔力を…探していた…⁉︎」
『そうなのよ、わたちも、そしてあちらも。』
魔手が次々と襲いかかってくる。拘束魔術の効果はいつまで保つかわからない。
紺は一か八かの勝負に出る!
「うおぉぉぉっ!藍音ぇぇっ!」
『のよよっ⁉︎』
紺は走った!一目散に妹のいる場所へ。
それと同時に、
赤い血がモノクロの世界に散った。
「ぐおおおぉぉっ!痛っってぇぇぞぉっ!」
紺の両肩から血が噴き出す。無防備に飛び込んだ紺の身体を数本の魔手が貫いた。
激痛が全身にはしる。しかし倒れることなく紺はもう一歩、前へ進む!
手を伸ばす。あと少しで藍音に届く。
『お前はバカなのよ⁉︎もっとやり方がっ…』
「そんなやり方知らねーんだよっ!ゔぁぁぁっ届けぇっゔぁぅ!」
紺はもう一歩、前へ踏み込む!
小さな身体に、手が届く。
そして紺は藍音の身体を抱きしめて自らの魔力を解放する。
『のよよよっ⁉︎む、無茶し過ぎなのよぉっ⁉︎』
「ゔぁぁぁぁっ!気を…しっかり…もてぇっ!俺だっ!藍音!聞こえるかぁっ!」
紺の身体に次々と魔手が突き刺さる。紺はその魔手を素手で掴み待っていたとばかりに拘束魔術を発動した。
無数の紺色の鎖が一箇所に集まった魔手に絡みつきその動きを封じた。
「ああああぁっ!消えろぉぉぉっ!」
紺はその鎖に自らの魔力を全て流し込む勢いで叫ぶ!モノクロの世界に、一瞬の光がさした。最も黒に近いそんな光が、カッ!と一瞬だけ強く光る。
ソレは一瞬で魔手を打ち消し、シャロットの施した結界らしき空間すら破壊した。モノクロに亀裂が入り、ガラスが割れるかのように、砕け散る。
世界に色が戻る。
夕焼けの赤、木々の蒼、石段のネズミ色に砂の茶色…
紺の腕の中には、藍音がいる。
「良かった…あい…ね…」
しかし紺の意識が薄れていく。魔力の枯渇だ。
「紺にぃ…に…大…すき…」
(悪いが朱音…後は、たの、む…)
本日三度目のダウン。
…
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