#7 追いかけっこなのよ?

 



「こ、紺兄っ⁉︎」


 真っ暗な闇の中、妹達が騒ぐ声だけが聞こえる。口々に死んだの?とか死んじゃいましたぁ!とか好き放題に騒ぐ声が。



「…う…あ、朱音…?」


 朱音は今日も可愛いシャツに白と黒のスカート。

 そして紺の視界とアングルは良好だ。



 倒れた紺を覗きこむ少女達の…パ…


「な、何見てんのよっ!この変っ態っ!」


 朱音の小さな足の裏が紺の顔面を踏みつけた。踏んで、踏んで、また踏みつける!それこそ潰れるくらいに本気で踏みつける!


「ぎゃぁっ…つ、潰れるつぶれるっ⁉︎タンマ!はい、ギブですっ!」


 妹に踏みつけられる紺を見る少女達はまるで汚物を見るかのような表情だった。


 紺は心底幼神シャロットを恨んだ。彼女さえ現れなければこんなことにはならなかったのだから。

 躊躇なく紺の顔面を踏み付ける朱音に見兼ねた藍音が珍しく姉に意見する。


「朱ねぇ、紺にぃにが死んじゃうから…やめて…」


「な、何よ藍音…こんな変態、一度死んだ方が…」


「…嫌!…そんな朱ねぇ、嫌いっ…」


「あ、ちょっと待ちなさいよ…あい、ね…」



 藍音が部屋を飛び出してしまった。

 一気に部屋の空気が重くなる。なんとか身体を起こした紺は気まずい雰囲気の五人を見る。


 そんな沈黙をきったのは環奈だった。


「とりあえず妹ちゃんを追いかけた方がいいんじゃない?外に出て行ったっぽいよ?」


「あたしもそう思う。朱音、とりあえずこの変態は放置して藍音ちゃんを探そう?」


 そう朱音を諭すのは凪子だ。するとみくりも首を縦に振る。吸血鬼の末裔、せつなは相変わらず眠そうにあくびをする。


 その時だった。空いた扉の向こうで美味そうにプリンを食べながら歩く幼女が横切ったのは。


「ああぁっ⁉︎アイツだよ⁉︎紺兄を傷モノにした幼女はっ!」


 驚いてプリンを落としそうになる幼神のシャロットは、はっ、と目を丸くする。


『見つかっちゃったのよ?…てへっ。』


舌を出して憎たらしく笑う幼女の顔が無性に頭にくる。紺は大きく溜息をついた。


「皆んな追いかけて!取っ捕まえて色々聞き出してやるんだから!」


『追いかけっこ?わぁーい逃げるのよ~!』


 シャロットは楽しそうに小走りで逃げていった。それを追うように朱音は部屋から飛び出してしまう。


「朱音はあたしが追うよ。環奈はチビちゃん達を連れて藍音ちゃんを追って!」


 凪子は急いで部屋を後にした。環奈は仕方ないとばかりに、行くよ?と部屋を出た。その後をみくりが追うように走っていく。



 ……


 すぅ…すぅ…


 部屋に残ったのは紺と、せつな…彼女は座りながら器用に眠っている。

 紺はじっとその姿を見つめてみた。


すぅすぅと小さな寝息をかく少女はとても愛くるしい。

 するおせつながふと目を覚ました。


 しかしまだまだ眠たそうな彼女は俯く紺を見て、ぐぅ、とお腹を鳴らした。

 パチクリと瞳は紺を視界から逃さんとばかりに見つめている。ぴょんと立ち上がった少女は座っている紺と対して変わらない背丈で、


「えっと、せつなちゃん?何故に近付いて…?」


 かぷっ…


「ぬがぁっ…あ…あぁ…っ」


(か、噛まれた⁉︎か、身体が動かない。というかなんかちょっと気持ちいい…って、血、吸ってますよね⁉︎せつなちゃん俺の血、吸ってますよね今!現在進行形でっ⁉︎)


 ちゅぅぅ…


(…いや、ちゅぅぅ、じゃなくて…駄目だっ…力が抜ける…何とかしてこの子を引き剥がさないと。)


 紺は力を振り絞り手を伸ばす。何とかその小さな身体を掴んだ紺は力の限りその手を前に押し出した。


 首元から少女が剥がれ、その小さな身体は思ったより軽くぽよよーんと転がっていく。

 やがてうつ伏せに倒れ項垂れてしまったせつなを紺はすかさず抱き上げたのだが…


 世界は再び暗転…紺は貧血で気を失うのであった。

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