#6 顔合わせと一撃

 



 …


 朱音の友達が二人、藍音の友達も二人…計六名のJS達が紺を取り囲みジロジロと『ロリコン』という生き物を観察している。


「こ、こんにちは…ははは…」


 紺が声を発すると目の前の少女達が一斉にビクッと身体を震わした。


「皆んな聞いて?ここにいるのが私の兄、変態のロリコンなの!」


 なんて紹介の仕方だよ!と心の中で叫ぶかのような表情で可愛い絨毯の上に正座で座る紺を年端もいかぬ少女達が冷たい目で見つめる。



 と、このように紺がJS達に囲まれる事となったのには理由わけがある。突如現れた幼女の神ことシャロットとの熱いキスシーンを小学五年生の妹、朱音に目撃されたからである。


 朱音は兄を完全にロリコンと認識、友達まで呼び集め、ろりこん更生委員会なるものを発足、それでこの有様というわけだ。



「あ、朱音…ロリコンって何?」


「ロリコンっていうのは私達みたいなまだ小さな女の子が好きな変態のことを指すの!」


「げっ…何その生き物⁉︎こわい…」


 あからさまに引いているのは朱音の友達で同じ空手スクールに通う凪沙なぎさ凪子なぎこという女の子だ。


 紺ともそれなりに面識があるが今日は明らかに彼を見る目がいつもと違う。

 そんな彼女は背が高めで黒いショートヘアが良く似合うボーイッシュなイメージで曲がった事が大嫌い。

 学校ではイジメっ子達を成敗する正義の味方的存在で男子も彼女には逆らえないほどだ。

 空手も小学生とは思えないくらいの腕で主に拳をメインに闘う。

 因みに朱音は蹴り技が得意だが、凪子には一度も勝ったことがない。

 服装は動きやすい軽装が好みで大体休日はTシャツにハーフパンツといったラフな格好で過ごす。



「へぇ、コレがロリコンなんだぁ?」


 明金色ライトゴールドの髪を二つ括りにした所謂ツインテールの女の子、那月なつき環奈かんなはまるで変質者を見るような目で紺を睨む。


 那月環奈と言えば今人気急上昇中のご当地JSアイドルグループのメンバーである。

 容姿は可愛らしくダンスも得意だ。歌も上手くて学校でも皆んなのアイドルとして一目を置かれる存在だ。

 紺は朱音と仲が良いのは知っていたが、こうして目の前で見るのは初めてである。



 続いて栗茶色マロンブラウンのショートヘアの女の子が口を開く。儚さを絵に描いたような少女はオドオドとしながら今にも消えそうな掠れた声で紺に挨拶をする。


「く、来未くるみみくり…ですっ…よ、宜しくお願いしますっ…」


 明らかに怖がられている。すると藍音が彼女について補足する。


「…みくりちゃんはお化けが友達なんだって。」


「視えちゃう系ですか⁉︎」


 来未みくり。

 彼女は幼少期から霊感が強く、その頃に友達になったおばけと今も仲良く共存している。

 身体つきは華奢で風が吹いたら飛んでいってしまいそうなイメージだ。控えめな藍音と気が合うのかいつも一緒にいる一番の友達だ。


 そして紺は隣の眠たそうな表情でウトウトするもう一人の女の子にも声をかけてみた。


「で、君はなんて名前?」


 紺が問いかけるとピクッと反応した彼女は顔をあげた。

 神秘的な乳白色ミルキィホワイトの長い髪に一際小さな身体。綺麗な翡翠色の大きな瞳が特徴的だ。


「…こよみ、せつな。」


 そして何より、声が可愛い。それが紺の第一印象だった。


 彼女は一言、そう言ってまた眠たそうな表情をする。すると藍音が彼女についても補足する。


「暦せつなちゃんは吸血鬼の末裔なんだって。定期的に血を吸わせてくれる人を絶賛募集中。吸わなくても生きていけるみたいなんだけど。」


「なんですと⁉︎」


 暦せつな。

 彼女の家系は吸血鬼の血を引く一族。とはいえ、吸血鬼の血は代をおうごとに薄くなりつつある。

 そんな中、稀に見る吸血鬼らしい容姿で生まれてきたのが暦せつなである。

 今のところ言い付けを守って人の血を吸うことを我慢している。しかし吸いたいのが本音なのだと藍音にだけ悩みを打ち明けたようだ。

 こちらもフワフワとしていて控えめなイメージで藍音と仲良くなれそうなタイプの女の子だ。


 すると朱音がとんでもないことを言い出した。


「因みに凪子ちゃんは風の精霊さんとお友達なんだよ?そして環奈ちゃんは猫の獣人と人間のクォーターなんだって、たまに猫みたいになっちゃうのはそのせいなんだって!」



「ふ、普通が誰一人としていねぇ⁉︎てか凪子ちゃんのその情報初耳ですよ⁉︎てか獣人⁉︎」


 頭を整理するのに少し時間がかかりそうだ。

 とはいえ、魔術師の家系である自分達も普通ではないかと正当化する紺だった。



「それじゃあ凪子ちゃん、とりあえず一発、殴っちゃおう!」


「え、朱音…本当にいいの?お兄さん、死んじゃうかもよ?」


 紺は目を丸くする。


「し、死なない程度に本気でやっちゃって!」


「わかったよ…お兄さん、これもお兄さんの為だからね。はい、起立。」


 言われるがまま起立した紺の前で…彼女は拳を握りしめた!


「なっ⁉︎ちょっと待っ…げはぁっ!」


 強烈な正拳突き…小さな拳が紺の腹に見事にめり込んで…





「あ、ちょっとやり過ぎたかな?」


 倒れた紺を覗き込む少女達。しかし紺の視界はボヤけ、やがて暗転するのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る