トマトアドベンチャー

「トマトマトマ~トケチャプップ~」


 このゲームについては、こんな奇妙なCMフレーズの方が知名度が高いかもしれない。

 だがはっきり言おう。これだけで終わらせるにはあまりにももったいないゲームである。




 このゲームを端的に言えば、RPGである。RPGだからフィールドを歩き回って情報を集め、敵と戦って進めて行く。その基本は外していない、ゲームボーイアドバンスだから、ちゃんとどこでもセーブができる。実にユーザーフレンドリーに




 システム面での特徴を言えば、武器になるだろう。このゲームの武器はギミックと呼ばれるのだが、それがAボタンを押してはいおしまいではないのである。


 例えば最初のギミックの「はぐるまヨーヨー」。これを選択すると、いきなり画面中央でバーが伸びたり縮んだりし始める。そのバーの先端を青い所で止めればより強いダメージを与える事ができる。全部で50種類のギミックがこのゲームに存在し、すべてに同じような仕掛けが存在する。

 つまるところ、50種類のミニゲームが存在しているのだ。しかもこのミニゲーム、難易度を大きく変えられる。レベル1~9(8以上は相手のおじゃま攻撃を受けた時のみ)まで存在し、レベルを上げれば上げるほど攻撃力も高くなるが、失敗しやすくなる。低いレベルで着実に当てに行くもよし、レベル7でガンガン狙っていくのも良しなのである。

 だが、前者の戦法には1つワナがある。最初は主人公1人であるが後に3人(共に戦えるのは1人だけだが)の仲間が加わると、「すごいの」と言う必殺技を放つ事が出来る。この必殺技ゲージの貯め方は、ギミックを失敗せずに成功させ続ける事だ。そしてそのゲージの貯め方は、レベルが高ければ高いほど貯まりやすくなる。中には受けたダメージを全返しにしたり、勝利後のお金が3倍になったり、3ターンノーダメージになったりする技も存在する。

 もっともそのゲージはギミックを失敗するとゼロになるので、地道にコツコツと言うのも戦法としてはありなのだが。







 そしてこのゲームを印象深い物にしているのは、とにかく世界観である。


 ギミックについて先ほど述べたが、普通に進めると25種類しか手に入らない。じゃあ残りはどうするのかと言うと、カイゾーと言う市井の発明家キャラに作ってもらうのである。そのために必要なアイテムを集める、ここまではありふれた話だろう。


 そのために交換するのが、「おしゃぶり」なのである。フィールド(このゲームは大マップを移動して小マップに入り、その中を冒険すると言う形式をとる)のあちこちに転がっているおしゃぶりを拾い集めたり、先ほど述べたすごいのゲージを満タンにしてぎょうしょうキッズから交換してもらったりして集めたおしゃぶりを渡す事により、新しいギミックを入手できる訳だ。

 



 さて、ここでこの作品の舞台であるケチャプー王国について解説しよう。


 ケチャプー王国とは「コドモの、コドモによる、コドモのための王国」である。

 登場人物の最年長は、10歳である。では大人は一体どこに行ったのだろうか。

 正解は、最初の町で聞かされる。


「戦いに負けた大人はみんなモンスターにされちゃったの」


 こんなセリフを、いきなりポロっと聞かされる。もちろんモンスターたちは、容赦なく主人公たちを狙って来る。誰かの父母を知らず知らずのうちに……と考えてしまうのは自然な流れだろう。


 そして主人公が最初にいる町は、コボレー村と言う名前である。名前からしてあまり恵まれた地ではない事がわかるだろうが、実際この村には店屋などはない。家屋も廃バス(主人公の家)だったりドラム缶だったりと、かなり退廃的な感覚すら覚える。

 端的に言えば、そこの住民は流刑民である。そしてその流刑を受けた理由は、「トマトが嫌い」でしかない。実に理不尽だ。その上に先ほどの話である、あるいはこの時点で投げる人もいるかもしれない。




 しかしこの世界はまだまだ壊れて行く。


 ストーリーをぶった切って言えば、先ほどの一件の際に同行した主人公の彼女が誘拐されたのでそれを助けに行く、という王道である。

 そのためにこの世界を支配する6人のスーパーキッズを倒し、そして主人公の彼女を連れ去ったこの国の王を倒すと言うのもこれまた王道である。


 だが、そのスーパーキッズたちもほとんど自重していない。彼らは自分が君臨する町を自分の色に染め上げており、それがそれぞれの町の特色となっている。ここまではまだ良い。


 ――――1人目のスーパーキッズ、ウープスが何をやっていたか。


「ウープスは私たちをスープにして食べていたんだって!」


 解放後のセリフである。しょっぱなからこれだ。




「んとねおいちおいちおいち……マズいんじゃあボケェ!!」

 それで3人目のホワットもこれだ。でっぷりと太った体格をした彼はラードジュース(ラード100%)なる代物を好み赤ちゃん言葉な喋り方をするが、キレるとこうやって炎を吐く。

 そんな彼はマンプクスーツなる代物を住民に着せており、そうでないキッズが入り込む事を嫌っている。端的に言えば、ホワット並みの肥満体型になるスーツだ。

「あついよ、おもいよ」と言う彼の治める町のテーマ曲が全てを語っていると言ってもいい。


 4人目のスーパーキッズ、リルビのいる町のス・クリーム山では、先に進むために目玉を押したり引っ張ったりしなければならない。中には目玉が抜けてアイテムが出て来る場所もある。その上にねこうもりキッズは主人公からパーツを奪い苦労して復活させておきながら、リルビにより理不尽に殺される。


 最後のスーパーキッズチェキダを倒すために通らねばならない「レム迷路・ノンレム迷路」もまたファンの間ではトラウマ要素とされやすい。





 敵がこんなならば、主人公たちも理不尽である。


 主人公(デフォルトネームデミル)は能天気で彼女一筋と言えば体はいいが世界の事などどうでもよくてただそのためだけに突っ走る存在だし、最初の仲間のアレサもまたアビーラの事しか頭にない少女である。

 だから、平気で人を突き落として星にする事も出来る。デミルもデミルで止めなかったし、もう一回やると言われた時にやだよと即座に拒否している。

 2人目のソフビーはパーティメンバー中最年長であるが基本的にはダイエット(蛇に詰まったと言う前科と父親からの手紙と言う理由はあったが)中心(の割にすごいのでチョコごと敵を食べたりするが)でやはり本来果たすべき目的とはかなり乖離した所を走っている。

 ならば最後の3人目、ずっとデミルたちにアドバイスを与えて来たレレクは……と言うとこっちも新聞記者の勤めを全うしていると言うべきかスクープ至上主義で世界は二の次の可能性が高い。


 とまあ、誰一人として真剣にこの世界の事なんぞ考えていないのである。


 


 





 と、ここまでむやみやたらに書いて来たが、それはさておき、ある種のアクションRPGとしてはまぎれもなく楽しめる作品であり、プレイして世界観に触れてみる価値は絶対にあると断言する。

 ある種の任天堂の本気であり、絶対に甘く見ない方がいい作品である。


 出来得るならば中古ソフト店で探すか、WiiU(現在ではWiiUの入手もやや難しいかもしれないが)のバーチャルコンソールでダウンロードしてもらいたい。

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