第4話
「ごめん明日華! あの二人、いつもあんな感じで付きまとってくるから、ここには付いてこられないように気をつけていたのに…本当にごめん!」
「なんで咲真が謝るのよ…」
「や、騒がしいの連れてきたの俺だし、二人から嫌なこと言われただろ…気分良くないよな…」
「別に気にしてないわよ。似たようなこと言われてきたことあるし…」
「明日華が良くても俺は嫌だ!」
「っ!?」
素っ気なく返す明日華に対し、咲真は感情的になっていた。思わず声を荒げた彼に、明日華も少し驚いた。
「な、んで…なんであんたがあれに傷ついてるのよ…私は大丈夫って言ってるじゃない」
「明日華は気にしないのかもしれないけど、いつも見てた俺からしてみれば、あんな風に言われているところ、見たくないし、あいつらがそんなことを言う義理もないし…明日華は、明日華だって、体治そうと頑張ってるじゃねえか…」
そう訴えながら、彼の目には涙がうっすらと浮かんでいた。唇を噛み締め悔しそうに顔を歪めている彼が、明日華の眼には痛々しく映っている。
「…わかった、わかったから…私の代わりに泣くようなことはやめて…」
「でも…」
「咲真も、毎日無理して来なくてもいいのよ…?」
明日華が悲しそうに言ったこの言葉に、咲真は目を見開く。軽く肩を震わせ、更に泣きそうな声で言った。
「なん、だよ…それ…俺、やっぱり邪魔、だった…? 鬱陶しかった…かな…?」
「やだ、ちが…そういう意味じゃ…」
「…わかった…俺も、しばらくここには来ないから…また変な奴ら連れてきて、体に障るのも良くないしな…」
「違う咲真! そんなつもりじゃないっ!」
明日華が必死に弁明するが、既に遅かった。咲真は、もう荷物をまとめて帰る準備をしている。面会時間にはまだ余裕がある。彼のいつもの笑顔はない。
「咲真っ!」
「ごめんな、明日華…」
「………っ!」
また、引き止める間もなく、咲真は颯爽と病室を出て行ってしまった。明日華は、こういう時に思うように体を動かせない自分を心底憎んだ。一人残された病室で、大粒の涙が頬を伝う。咲真が出て行ってからほんの少しの間を置いて、先ほどの明日華の声を聞きつけてか、看護師が心配そうに病室に入ってきた。
「明日華ちゃん…? さっきすごい声がしたけど、大丈夫…?」
「…んで」
「あら、咲真くん、もう帰っちゃったの…」
「何でいっつもそうやって勝手なのよ…!」
「明日華ちゃん!?」
看護師が驚いたのは言うまでもなかった。明日華は大事に保管しておいた、桜の花びらが詰まった瓶を取り出して、窓を開け放ったのだ。それを外に投げ捨てるのかと悟った看護師が止めに入ろうとしたが、一瞬、明日華の動きが止まる。そして、瓶の中身だけを窓の外へ放ったのだ。
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