第4話
■
「あんなシーン原作にあったか?」
「ないな」
俺たちは宿の廊下を歩いていた。ポニテ美形浴衣女子高生の駒形から罵倒を受けた八重垣マクトは、ぽかんとした表情をしていた。当たり前だろう。
「どうすんだよ。あいつに目をつけられたら」
「残念だが、この『駒形サクラ』は最後まで生き残る筋書きだからな」
駒形がふわっと髪を書き上げると、俺は殺意が沸いた。
「んで?これから俺はどうすればいいんだよ、生存フラグの駒形さん?」
「ちょっと付いて来て欲しい場所があってな。朝まで隠れていて欲しいんだ」
駒形に連れられてやってきたのは、宿の物置だった。芝刈り機や物干し竿、掃除ロッカーが雑然と並んでいる。
「よくこんな場所見つけたな」
「第3犠牲者の遺体発見場所はここだからな」
駒形は錆びた掃除ロッカーを指差した。
「うっわぁ……」
「じゃ、伊勢崎。ちょっと後ろ向いて、目を閉じていてくれないか」
「あ? まぁ、いいが……」
次の瞬間の駒形の動きときたら見事なものだった。どこからともなくガムテープを取り出し、俺の両腕を縛る。ついでに足も縛り、なんだったら口も塞いでしまった。身動きができないように全身をぐるぐるまきにされ、俺は掃除ロッカーの中に突っ込まれた。
「悪く思うなよ」
抗議の声を上げようとする俺を見ながら、駒形は微笑んだ。
「記憶を取り戻してからというもの、俺はなんとかして推理小説のシナリオを壊そうとした。修学旅行を中止にしようとしたり、宿泊先を変えようとしたり、第一犠牲者の生徒が修学旅行に来ないようにしたり。だが、いつもダメなんだ。シナリオどおりに進んじまう。お前がいくら記憶を取り戻していようが、きっとお前は今日の夜、何らかの理由でふらふらと庭に行って、殺されちまうんだ……だから!」
長い長い独白のあと、駒形は掃除ロッカーの扉を閉めた。俺は視界が真っ暗になる。
「お前には物理的にそこにいてもらう」
■
俺はその夜を、全身簀巻きにされたまま掃除ロッカーの中ですごした。なんて気の利いたベッドだ。やはり推理小説の舞台になるお譲様学校は一味違うな。
俺は両腕を動かしたり、左右を横に振ったり、うめき声を出し続けていたが、誰かが来る気配はなかった。そのうちに、俺は疲れて寝てしまったようだ。
目が覚めると、掃除ロッカーの中には日の光が差し込んでいた。ばたばたと、慌ただしい人間の足音もする。俺はガタガタと揺れ始め、存在をアピールし始めた。
かくて、俺は救出された。下宿先の従業員は、簀巻きにされた俺を見て気を失いかねない勢いだった。他の人間と警察を呼んでくると、俺の拘束を解いてくれた。
「ええい! 駒形サクラはどこにいる!!」
口のガムテープが解かれると、開口一番に俺は叫んだ。
「駒形サクラ? 彼女が、あなたをここに閉じ込めたのですか?」
背の高い警察が、俺に屈んで話しかけてくる。
「その通りだよ! あの野郎、一発分殴らねえと気がすまねえぞ」
警官と、宿泊先の従業員たちは、困ったように顔を見合わせた。ひそひそと話し声がする。俺の口調に驚いているだけではなさそうだ。なんだか様子が変である。
警官の一人がこちらに向き直ると、代表して俺にこういった。
「駒形サクラは殺されました」
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