第2話



「な? 言ったろ?」


 ワクドナルド店内で駒形が足を組んだ。二日連続で放課後ワクドナルドとか、さすがに飽きる。が、そんなことは言ってられない。


「何でもっと早く言ってくれなかったんだよ!!」


 俺が怒鳴ると、店内の客が不思議そうにこちらを見た。そりゃあ、街でも有名なお譲様女子高の生徒が、ファーストフード店で怒鳴り散らせば嫌でも目立つだろう。


「だって、俺だって記憶が戻ったのついこの間だったんだぜ」


 駒形サクラは、ポニーテールのよく似合う美少女だ。17歳。女子高生。尊い。


「しかも、推理小説の世界ってどういうことだよ!?」


 俺が、飲み終わったワックシェイクを握りつぶしながら怒鳴る。ちなみに俺自身はショートカットの美少女だ。


「普通、転生っていったら、ファンタジーな世界で俺TUEEEするのが普通だろ!?」


「お、詳しいな」


「うるせえぞ! ここ、どう見ても現代日本じゃねえか! 転生先が現代日本ってどういうことだよ!! 泣くぞ!!」


「現代日本じゃねえんだよ。ここは、推理小説の世界なんだ」


 駒形はフライドポテトを食べた指をぺろぺろと舐めている。えろい。


「どういう根拠があって推理小説だって結論付けたんだよ」


「高馬女子高等学園」


 駒形がポテトで俺を指した。


「有名だから知ってるだろう。『八重垣やえがきマクトの事件簿』シリーズ」


 俺は、前世の記憶を呼び覚まそうとして、頭を捻った。


「よく覚えてないが……なんか有名な推理小説だよな? アニメ化してなかったか?」


 活字は苦手だが、アニメはよく見ていた記憶がある。


「『八重垣マクトの事件簿』シリーズの、第一巻のサブタイトルは知ってるか?」


「知らん」


「『高馬女子高等学園修学旅行殺人事件』だ」


「まんまじゃねーか!!」


 店員に鋭い目でにらまれて、俺は小声で続ける。


「だ、だけど俺が殺されるって」


「その小説、第一犠牲者の名前は『伊勢崎アイ』なんだ」


「俺じゃん!!」






 帰り際「死にたくなければ修学旅行に来るな」との台詞を貰い、俺は自分の家、というか伊勢崎アイの家に帰った。この家の両親可哀想だな。可愛い一人娘の中身がおっさんであるだけでも同情に値するのに、その一人娘が死ぬのである。可哀想過ぎる。


 ちなみに転生前の俺は、バイク好きのおっさんだった。何で死んだのかは忘れたが、たぶんトラックにでもねられたのだろう。よくある話だ。



 さて、修学旅行、そして俺の命日は明日である。あまりにも時間がなさ過ぎた。俺がもっと早く記憶を取り戻していたら。いや、取り戻していなかったら。


 俺が修学旅行に行かなかったとしたら、他の生徒第一犠牲者になってしまうのだろうか。そもそも、殺人事件自体が起こらないという可能性だって有るのではないか。その夜、俺はほとんど眠れなかった。


 修学旅行当日の朝、俺は体調不良を決め込むことにした。母親の持っていた下剤を大量に飲むことに決めたのだ。


 効果は抜群だった。女子高生の尻がナイアガラ。俺はトイレから動けなくなった。クソ腹が痛い。これは黙って殺害されたほうが楽だったかもしれない。もう二度とやらん。いいか、もう二度とだ。



 出発時間になってもトイレから出てこない一人娘を、母親は心配したようだった。そうして俺が腹を壊しているのを知ると、学園のほうに電話を入れたようだ。


「ええ。修学旅行は欠席でお願いします。本当に残念ですけど。朝から体調を崩してしまって……はい、はい。」



 トイレの地獄の苦しみの2,3時間後、俺の腹はようやく落ち着いた。トイレから出てきて、よく手を洗って、すっきりした顔でハーブティーを飲んでいる俺をみて、母親は何か思うところがあったらしい。


「ねえ、アイ。修学旅行の宿泊先まで乗せて行ってあげるわ」


 嘘だろ。


「せっかくの機会ですもの。今からでも遅くないわ。修学旅行に行ってらっしゃい」


 俺の人生は終わった。



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