推理小説の世界に転生したけど第一犠牲者

時雨夜明石

第1話

 ちょっと聞いて欲しいのですが、最近親友の様子がおかしいのです。授業中にいきなり


「よりにもよって推理小説の世界に転生かよ!」


と叫びだしたり、


「女子高生尊い!!」


と意味不明な言動をしたり。何か悩み事でもあるのでしょうか? 


 彼女は名家『駒形こまがた家』の一人娘でして、私と同じ高馬女子高等学園に通っております。容姿秀麗、品行方正の模範的な生徒として、清く正しく17年間を送ってまいりました。


 そんな彼女から、


「ちょっとワクドナルドいかねえか?」


 と誘われたのです。どう返答してよいものか困りましたわ。そんなファーストフード店など一度も訪れたことはございませんし、先生方もなんとおっしゃるかわかりません。ですが私は、何か悩みがあるのなら、駒形さんの力になってあげたいと思ったのです。


 ファーストフード店の一番奥のボックス席で、彼女は足を組みながらこういいました。


「なあ、伊勢崎いせさき。ここが推理小説の世界だって気づいてるか?」


 私は驚きましたわ。まず、駒形さんが私を苗字で呼んできたこと。いつもは『アイさん』と上品に呼んでくださいますのに。それから、推理小説と言う言葉にも驚きました。だって、人が傷ついたり、死んだりするお話のことでしょう?そんなもの、読んだことも触ったこともないのです。


 私がその旨を申し上げますと、駒形さんは心底がっかりした表情で


「そうか……お前は記憶がないのか……」


 と言いました。それから、続けてこういうのです。



「伊勢崎。お前は、2日後の修学旅行で殺される」





 彼女の言葉に混乱しながらも、私は帰宅いたしました。彼女、きっと熱病か何かにうなされているのでしょう。帰り際、私は彼女にお医者様にかかることをおススメいたしておきました。


 家に戻ると、使用人の作った夕食が並んでいました。正直、ワクドナルドバーガーでお腹はいっぱいだったのですが、そんな庶民のお店に行ったことを家族には伝えられません。食欲がないと言うことを伝えて、夕食はほんの少ししか頂きませんでした。


 ダイニングに行くと、お母様とお父様が映画をご覧になっていました。丁度、海外の男優さんがバイクに乗っているシーンでしたわ。金属の塊を自在に乗りこなす殿方は、とても素敵です。


 なんという名前のバイクなのでしょう?お恥ずかしながら私、バイクと言う乗り物には疎くて……。


……。


 機種はハーレー、FLSTFファットボーイだ。クラッチ。ブレーキ。皮手袋の感触。バイクに乗る時は『飲み会で吐いたときのように』背中を丸めろと教えられた記憶が蘇る。


 片足を付く。アスファルトの感触。ミラーに写る後続車。ヘルメット越しで紫外線が遮られた視界。


「そういや、最近バイク乗ってねえな」


 そんな言葉が、口をついて出てきました。


「アイ、何か言ったかい?」


 お父様が振り返って、私を不思議そうにごらんになりました。いや、誰だよこのオッサン。父親?は?この男が?


「アイ?」


 私は……いや、俺は両手で顔を抑えた。柔らかなほっぺ。細い指。サラサラの髪。マジかよ。


「俺、女子高生に転生してる!?」

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