23話、お布団の魅力

 結局次の日、香住かすみの未だかつてない猛烈なアタックの末に私は、香住の部屋に住む事になった。


 もちろん最初は頑なに断ったわっ。そりゃそうよ。一日だけならまだしも、「これからはずっと、ここに住んでもいいんですよ」って、言われたらね。

 こんな私が、とても綺麗な香住の部屋に居座るなんて、身の程知らずもいいところだし、なによりも、香住に迷惑がかかっちゃう。 


 だけども、それを言われた時は、心の底から本当に嬉しかった。


 部屋にある物は、好きに使っていいと言ってくれた。冷蔵庫や棚に入ってる食べ物や飲み物も、好きに食べ飲みしていいとも言ってくれた。

 テレビが見たくなったら、いつでも好きに見ていいとも言ってくれた。眠くなったら、ベッドを自由に使ってもいいとも言ってくれた。 


 香住は、なんて優しい人間なんだろう……。


 しかし、本人に許可をもらったとしても、そんな図々しい事が出来るハズがない。だから私は、香住が部屋に帰ってくるまでの間は、ベッドにある布団の中でじっとしている。

 

 でね、この布団ってヤツが、また最高なのよっ!


 普段私は、人気ひとけの無い山奥で一人、大木に寄りかかって寝ていたの。人間がまったくいなく、動物達も皆無な空間で、ただ一人。周りは深い深い森のみで、とっても安心できる場所だった。

 夏の季節の時は、夜も暖かくて眠れていたけど、最近は季節が変わってきたせいで、耐え難い寒さに震えて起きる事がよくあったの。


 だけど、この布団の中はずっと暖かくて、ぐっすりと眠れるのよっ! 全身を満遍なく包み込んでくれるし、なによりも、香住のいい匂いがしてくる。

 この魔の布団のせいで、私の睡眠時間は格段に上がっちゃったわっ。平日香住は、朝早く部屋を出ていってしまうけど、帰ってくるまで私はずっと眠ってしまっている。


 だって仕方ないでしょ? 布団の中はとっても安心できるし、心地が良いんだもの。


 この布団の中に入っていると、心のタガが外れちゃうのか、香住と一緒になって寝る時は必ず、香住の体をギュッと抱きしめて寝ちゃうの。

 そうすると香住は微笑んで、私の小さな体をギュッと抱き返してくる。今の私にとって、この時間はとても大好きな時間だ。


 香住の体はとても温かく、心が安らぐようないい匂いがしてくる。だからいつも気が緩んで、甘えたくなってしまう。


 香住の体に顔をうずめて、頬ずりしたい。というか、ほぼ無意識の内にしてしまっている。この事について香住は、どう思ってるのかしら?

 嫌がったりしてないだろうか? 幻滅したりしてないだろうか? でも、香住も私の体をギュッと抱きしめてくれてるし、きっと嫌な思いはしてないハズ。


 私が香住の部屋に住むようになってから、香住の睡眠時間もかなり増えた気がする。前に、休日は早く起きてるとか言ってたけど、今は昼前ぐらいまで一緒に寝てしまっている。

 私の寝坊癖が移っちゃったのかしら? でも、その時の香住の表情は、すごく幸せそうにしている。その表情を見てると、私もなんだか幸せな気分になってくるの。


 この幸せな時間が、ずっと続けばいいなぁ。


 香住とずっと一緒にいたい。ずっとずっと、同じ時間を過ごしていきたい。私を、都市伝説の化け物から人間にしてくれた香住の為に、何か役に立つ事をしてあげたい。

 何をすればいいのかしら? 考えてもわからないから、明日にでも香住に聞いてみよっと。私にやってほしい事があれば、なんでもやってやるんだからっ。


 おやすみ、大好きな香住っ。私をこの部屋に住ませてくれて、本当にありがと。

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