20話、相原 香住の決意
私はここ最近になって、大学の帰りやバイトが無い日が、とても楽しみになっている。理由は至ってシンプルな物で、メリーさんと一緒に居られるからだ。
二、三週間前からだろうか。決まった時間にメリーさんが私に電話をしてきて、毎日のように私の部屋の前で待ち構えているんです。
帰ってきた私が目に入ると、メリーさんはとても可愛い笑顔で出迎えてくれる。その笑顔を見ると、イヤな出来事が全て吹き飛んで、疲れもあっという間に癒えるんですよね。
一緒になって部屋に入ると、真っ先に暖房とコタツのスイッチを入れて、部屋を温めるのが今の日課になっています。
季節が秋から冬に移行し始めましたからね。もう、服を何枚も着こまないと、外に出るのが厳しい寒さになりました。
だから、いつも外で待っているメリーさんに「先に部屋の中に入っててもいいんですよ?」とは言っているんですが、メリーさんはそれを頑なに拒んできます。……寒くないんでしょうか?
でも、温まったコタツに入り込むと、とっても幸せそうな表情になるんです。やはり、寒さは感じているんだろうな。
暖房やコタツで冷えた身体を温めると、そこからは特に中身の無い会話で盛り上がります。
そんな会話でもメリーさんは笑ってくれたり、驚いてくれるようになりました。
そして、毎日会って親しくなってきた証なのか、メリーさんは自分の事をよく話してくれるようになってくれたんですよね。
生まれた瞬間から一人ぼっちだった事。最初は自分を人間の子供だと思っていた事。とある会話を耳にして、自分は人間ではなく、都市伝説の
人間の視線が怖くなり、何度も何度も涙を流した事。そして最後には、
メリーさんの過去を聞いた時は、絶句しました。掛ける言葉が見つからず、
当たり前です。当時の私も、相当なショックを受けていましたから。まさかメリーさんに、そんな暗い過去があったなんて、と。
そしてしばらく黙っていて、頭の整理が追いついてきたら、一つのとある感情が芽生えたんです。
『メリーさんを、人間にしてあげたい』、そんな感情です。
最初は自分も、何を考えてんだろうって苦笑いしてしまいましたけど、心の底からそう思いました。今でも強く思っています。
……そう考えたものの、人間にしてあげるにはどうすればいいのか? 頭を悩ませて、相当考え込みました。
行きついた先は、私と同じ生活をしてもらう事、です。一緒に美味しいご飯を食べ、一緒に気持ちのいいお風呂に入る。最後に、温かいお布団に包まれて一緒に寝る。
実に人間らしい生き方ですよね。当たり前で普通の事。それが一番大事じゃないのかなって言うのが、私なりの結論です。
……メリーさんと一緒に居たいという、私の願望もかなり含まれていますが。
ご飯は平日の夜。休日には昼と夜、一緒に食べています。これはもうクリアしているんですよね。後は、一緒にお風呂に入って、一緒にお布団の中で寝る事のみ。
聞いた話ですが、メリーさんは寝る時に逃げ込んだ山奥で、一人寂しく寝ているらしいんです。今はもう冬になっているので、夜は絶対に寒いハズ。
私とメリーさんは、相当仲良くなりました。
そろそろメリーさんに、私の部屋に泊まっていかないか聞いてみるつもりです。あわよくば、こっそりと住ませてあげようとも思っています。
ただ、これには一つ怖い点があります。仲良くなったというこの気持ち。実は、私だけが抱いている気持ちなんじゃないかという事です。
もし、この話を持ち掛けて、メリーさんに何か裏があるんじゃ? と疑われ、警戒心を持たれるのを視野に入れないといけません。
最悪、そのままお別れになる可能性も、無くはない……。
そんなのは絶対にイヤだ。正直に言いますと、私はメリーさんの事が大好きです。もちろん、友達という意味で。
今度メリーさんが来たら、さり気なく聞いてみる事にしましょう。そう、本人に悪い印象を与える事無く、ごく自然な流れで。
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