19話-2、心が安らぐ人間

まとい姉さんはどれにします?」


「じゃあキャラメル」


「キャラメルですね。私は塩にしよっかなぁ。君はどれにする?」


「えと、……じゃあ、塩でっ!」


「塩ね、了解。すみませーん、塩を二つとキャラメルを一つ。全部一番大きいのでお願いします!」


 何も言ってないのに、花梨かりんは一番大きいのを選んでくれた。普通の大きさは三百円だけど、一番大きいのは二倍入ってるから、六百円もするのに……。本当にいいのかしら?

 たった数分しか話してないのに、私がお腹をすかしてるっていう理由だけで、なんの躊躇ためらいも無くスッとお金を払ってくれた。


 花梨という人間に私は、すぐに心を開いてしまいそうだ。私の事をよくしてくれる清美きよみ香住かすみにも心を開くのは、かなり時間が掛かったっていうのに。

 大盛りのポップコーンを渡されると、みんなで一緒にベンチへと向かい、纏、花梨、私の順番で腰を下ろす。

 隣にいる花梨からいい匂いがしてくる。心が安らぐような、どこか安心できるとっても好きな匂いだ。


「んっはぁ~! 出来立てホヤホヤで、塩がすごく効いてるや〜。んまいっ」


「キャラメルも甘くて美味しい」


「おいひい~っ!」


 花梨が本当においしそうに食べてるから、私が食べてるポップコーンも普段よりかなりおいしく感じてくる。とても不思議な気分だわっ。


「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は秋風あきかぜ 花梨かりん。こちらは、座敷童子という妖怪の纏姉さんだよ」


「ざしきわらし……。じゃあ、花梨もざしきわらしっていう妖怪なの?」


「いやっ、私は普通の人間だよ。纏姉さんって言ってるのは、色々と経緯はあってねぇ。君はなんていう妖怪さんなの?」


 私の事を人間じゃないと知ってて、こんなに自然に接してくるなんて。普段から妖怪と接してるのかしら?

 それとも、並外れた度胸を持ってるのか、実はやっぱり花梨も妖怪とかじゃないわよね?


「わ、私はメリー。都市伝説って呼ばれてる怪異の存在よ」


「メリーって、電話をするとだんだん近づいてくるっていう、あのメリーさん?」


「そうよっ、とっても怖いメリーさんなんだからっ」


 とは言っても、最近そんな事はほとんどやってないけどね。人間と一緒に食事を楽しんだり、子供達と遊んだりしてるって言ったら、メリーさんの名がすたっちゃうわっ。

 一応こんな私にも、プライドという物がある。人間を怖がらせて、恐怖のどん底に落としてやるっていう強い意思とプライドがね。


「へぇ~、君があのメリーさんなんだ。初めて見たや。こっちでそんな人に会うのは、ぬえさんとぬらりひょん様以来だなぁ」


 こっちでは……? なんだか引っ掛かる言い方ね。もしかして花梨達は、どこか遠い場所に住んでるのかしら。

 友達になりたいと思ってたのに……、残念だわっ。でも、まだそうと決まったワケじゃない。とりあえず聞いてみよっと。


「花梨は、どこに住んでるのかしら?」


「私? 一応この街にあるアパートに住んでるけど、今は違う場所で住み込みで働いててねぇ。少ししたら、またそっちに帰っちゃうんだ」


「そう、なのね……」


 やっぱり、普段この街にはいないんだ。今日はたまたま出会えただけなのね。どうしよう、この数十分の間で、花梨に好意を抱いてしまった。

 もう会えなくなるなんてイヤだなぁ……。別れって、こんなに寂しいものなのね。初めて味わう感情だけども、胸がキュッて苦しくなってすごくツライわっ……。


「また、花梨達と会える、かしら……?」


「私達と? ん~、携帯電話の支払いをしにちょくちょく帰ってくるから、一、二ヶ月ぐらいに一度は会えるんじゃないかな?」


「ほ、ほんとっ?」


「うん。あと九ヶ月ぐらいで、今やっている仕事の契約が終了するし。そうしたらこっちに帰ってくるから、なんなら毎日会えるようになるかもね」


 よかった、ずっと会えなくなるワケじゃないのね。……それでも、一、二ヶ月に一度しか会えないんだ。次に会える日が待ち遠しくなっちゃうわっ。

 でも、花梨達がこっちに帰ってきても、必ず出会えるワケじゃない。行き違いになる可能性だって充分にある。


 そんなのはイヤだわっ。もっといっぱい花梨達とお喋りがしたいもの。


「またこっちに帰ってきたら、もっと一緒に……、お喋りがしたいなぁ……」


 あっ、うっかり本音を言っちゃった……。恐る恐る花梨に目を向けてみると、何かを考えるように空を見てる。

 どうしよう、花梨の気持ちを一切考えないで、変な事を口走っちゃった。悪い印象しかない……。


 当たり前だわっ。花梨達からしたら、私はただの赤の他人。たまたま纏が私に声を掛けてきただけだし……、たったそれだけの関係だもの。こんな願いが通じるハズもないわね……。


「いいよ。じゃあ次は、ちょうど一ヶ月後にこの公園に来るから、またこの時間ぐらいにベンチで待っててね」


「えっ!? い、いいのっ? 本当にいいのっ!?」


「うん、携帯電話の支払い以外にやる事が無いしね」


「やったっ! じゃあ必ずここで待ってるわねっ!」


「分かった。それじゃあ纏姉さん、温泉街に戻りましょうか」


 また会える約束ができたっ! 嬉しいっ、本当に嬉しいっ! ちょうど一ヶ月後の、この時間ぐらいね。ちゃんと覚えておかないと。

 人間と会える日が待ち遠しく思うなんて、初めの気持ちだ。花梨には他の人間には無い、とても魅力的な何かがある。だから纏も、花梨の事をこんなに慕ってるのかしら?


「帰る前に、もう一回ポップコーンが食べたい」


「おっ、ポップコーンにハマりましたね? じゃあ私も買っちゃおうかなぁ。そうだ、メリーさんも一緒に食べようよ」


「へっ? わ、私もっ!? そんなっ、悪いわよ」


「いいからいいから。ほら、おいで」


「……ありがとっ、花梨っ!」


 ああ、私はもう、すっかり花梨の事が大好きになっちゃった。叶わない夢だけど、ずっと花梨と一緒にいたいなぁ。纏がとても羨ましい。

 温泉街って言ってたけど、この近くにそんな場所は無い。きっと、かなり遠い場所にあるのね。私が適当に電話を掛けても、絶対に繋がらないわね。残念だわっ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る