19話-1、おかっぱとポニーテール
私は最近、平日の午前中から午後三時ぐらいまでの時間帯が、大嫌いになってる。理由は単純で、強い孤独を感じるからだ。
人間の子供達や
私本来の活動を再開してから、こんな気持ちは微塵も思ってなかったけど……。親しい人間が増えてくると、イヤでもこの寂しい気持ちが芽生えてくる。
やっぱり、一人でいるのは辛くて寂しい。誰かと一緒にいたい。なんでもない会話を楽しんで、お腹の底から笑って、勝手に流れていく時間を忘れて過ごしていきたい。
人間じゃない私が、こんな事を願うのは贅沢だと思うけど、一度味わっちゃうとなかなか頭から離れなくなって、余計に孤独感が増していく。
今は暇を持て余して公園に来て、姿を消してボーッとしながらベンチに座ってる。たまにポップコーンのおいしい匂いが鼻をくすぐってくるけど、お金が無いから我慢しないと。
目の前にある物が食べられないなんて、ちょっとした拷問みたいだ。
こうなってくると、やっぱり私も人間として生まれたかった。人間には必ず、家族というものがいるらしい。父と母、大人の男と女が一人ずつ。
人間は生まれた瞬間から一人じゃない。父と母がいる。なんなら他にも、兄や弟、姉や妹なんかもいるかもしれない。
私は生まれた瞬間から一人だった。父や母はいない。兄や弟、姉や妹さえもいなかった。だから、人間がとても羨ましい。
「あっ、ポップコーンが売ってる! ちょっと食べていきましょうよ」
「これって、前にクロが差し入れで持ってきたお菓子だっけ」
「一緒ですけど、これは常に出来立てホカホカなので、お菓子よりもずっと美味しいんですよね」
「じゃあいっぱい食べる」
見た目は全然似てないけど、姉妹かしら? 一人は黒い和服を着てる小さなおかっぱ。
もう一人は、赤のTシャツを着たオレンジ色のポニーテール。これからポップコーンを食べるんだ、いいなぁ。
あら? おかっぱの奴と目が合った。私の姿が見えてるのかしら? じーっと私の事を睨んでるし、なんだかこっちに向かって近づいてきてるような……。
「さっきからずっと私達の事を見てるけど、なんか用でもあるの」
「あ、あんた、人間のクセに私が見えるの?」
「私は人間じゃないよ。あんたも人間じゃないクセに、人間と妖怪の区別がつかないんだね」
「なっ……!?」
な、なによこいつ、すごく生意気な奴じゃない……。それにしてもこのおかっぱ、人間じゃないの? 見た目は完全に人間の子供みたいだけど、妖怪なんだ。初めて見たわっ。
あんまりジロジロ見てると、また何か言われそうね。深く関わるのはやめておこっと。なんだかめんどくさそうな奴だしね。
「
「
「へっ? き、急に怖い事を言わないでくださいよ……」
こいつら、纏と花梨って言うんだ。花梨っていう奴が、自分よりずっと小さい纏の事を姉さんって言ってたけど、とんでもない身長差ね。普通、逆じゃないのかしら。
「大丈夫、見た目は全然怖くない」
「だ、誰が全然怖くないですって!?」
「わっ、急に現れた!? あっ、でも……、カワイイ、かも」
「ふぇっ!? わ、私が、カワイイ……? あ、ありが、と……」
勢い余って姿を現しちゃったけど、花梨は驚かないで、私の事をカワイイって言ってくれた。なんなんだろうこいつら、ちょっと調子が狂っちゃう。
花梨はどう見ても人間だけど、纏は妖怪。なんで人間と妖怪が一緒にいるのかしら? この街には結構長くいるけど、初めて見る珍しい組み合わせね。
「纏姉さんは、なんでこの子に絡んだんですか?」
「ずっと私達の事を見てたから」
「へぇ~、そうなんですね。ねえ君、私達に何か用でもあるの?」
「べ、別に特に用は……、あっ」
お、お腹がグゥ~って鳴っちゃった、恥ずかしい……。普段鳴る事なんて無かったのに、なんで今日だけ……。
最近になって、毎日のように香住の家でご飯を食べてるせいかしら? どっちにしろ、早くこの場から逃げ出したい……。
「お腹がすいているんだね。今からポップコーンを食べるんだけど、君も一緒に食べる?」
「えっ!? い、いいの?」
「うん、纏姉さんも構わないですよね」
「花梨がそう言うなら」
「よし、じゃあ決まり! おいで、好きな物を買ってあげるよ」
「……あ、ありがと花梨っ!」
出会ってから数分しか経ってないのに、なんて優しい人間なんだろう。こんな人間もいるんだ、正直すごく驚いてる。
香住や清美もそうだけど、花梨には二人とはまた違った別の雰囲気がある。全然イヤじゃない、とても好きな雰囲気だ。
花梨にだんだん興味が湧いてきた。もしよかったら、友達になりたいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます