10話-3、初めてのお友達

 ちょっと音が鳴ったかと思ったら一気に弾け始めた! 小さな爆竹をいっぱい鳴らしたような、破裂音に近い音がするんだな。少し驚いてしまった。

 よし。だんだん音が止んできたから、そろそろ完成するかな。これでメリーさんとポップコーンが食べられるぞ。


「メリーさん、ポップコーンが出来ましたよ! ……メリーさん?」


 隣に居たハズのメリーさんが、いつの間にかいなくなっている。どこに行ってしまったんだろう? もしかして、飽きて帰っちゃったのかな?

 そんな、せっかく一緒にポップコーンが食べられると思ったのに……。


 ……あれ? 私の布団が少し膨れている。それに、膨れている部分がカタカタと震えているような? こ、怖いけど捲ってみよう。

 恐る恐る布団を捲ってみると、そこには頭を抱えて布団に顔をうずめているメリーさんが居た。いったい何をやっているんだろう?


「メリーさん。そんな所で震えて何をしているんですか?」


「ヒャッ!? あっ、香住っ……。な、何って、いきなり大きな音がしたから……」


「大きな音? ……もしかして、ポップコーンの弾けてる音にビックリしたんですか?」


「……ふぇ? そ、そそそ、そんなワケないじゃないっ! あれ、その、き、急に眠くなっちゃっただけよっ!」


「あ、ああっ! そうなん、ですね」


 メリーさんって、人を驚かせる都市伝説なのに、あんな音でここまで怖がっちゃうんだ。よく見ると目に涙が溜まっていて、若干潤んでいるような……。

 かなり特殊なこと以外、人間の子供とそんな大差が無いように思えてきてしまった。そうだ、ポップコーンが出来たんだった。


「あの、メリーさん。ポップコーンが出来ましたよ。一緒に食べませんか?」


「できたのっ!? うんっ、食べるわっ!」


 怯えていた表情から一転して、カワイイ笑顔に戻った。さてと、まずは封を開けないと。膨らんだフィルムを剥がして……、アチッ!

 出来立てだから、ものすごく熱い……。あっ、注意書きにも書いてあった! ちゃんと読んでおけばよかったな……。


 熱に注意してハサミ等で開けてください。っか。上から十字に切って開ければいいかな?


 こうやって、縦と横に直線で……、切れた! 切れたけど、ハサミがバターで汚れてしまった。後で濡れた布巾でちゃんと拭いておかないと。

 封を開けたからか、ふんわりとポップコーンの香ばしい匂いが漂ってきた。あまり嗅いだことの無い匂いだけど、とっても好きな匂いだ。

 テーブルが汚れないよう下に紙を敷き、その上にポップコーンが入った容器を置く。それと同時に、私の横にメリーさんが駆け寄ってきて、ちょこんと座った。


「はい、メリーさん。とても熱いので、気をつけて食べてくださいね」


「やったっ! ありがとっ!」


 メリーさんがお礼を言ってくれた。なんだか嬉しいな。満面の笑みで美味しそうにポップコーンを食べている。やっぱりメリーさんの好物なんだろうか? ちょっと意外だ。


「美味しいですか?」


「うんっ! すごくおいしいわっ!」


「よかった、お口に合って何よりです。私も食べてみよっと」


 まだ少し熱いから、息を吹きかけて冷まして……。うんっ、バターの風味が効いてて、口当たりも思っていたよりも柔らかくて美味しい。

 そうだ、確か塩が合うんでしたよね。台所に食塩があったハズだから、掛けてもう一度食べてみよう。テーブルに零れないようにゆっくり掛けてっと。

 おおっ、ポップコーンと塩の相性抜群っ! バターが塩の味を引き立ててくれるから、いくらでも食べられそうだ。食べる手が止まらないや。


香住かすみっ。いま、何をかけたのかしら?」


「えっと、塩って言う調味料を掛けました。ポップコーンがより美味しくなりましたよ」


「本当っ? それだけで味が変わるなん―――ッッ!?」


 疑心暗鬼だったメリーさんが、塩を掛けたポップコーンを口に入れた瞬間。目を輝かせながらフリーズしてしまった。

 よほど美味しかったんだろうな。青く澄んだ目をパチクリとさせつつ、その目を私に向けてきている。


「お、美味しいですか?」


「うん、うんっ! とってもおいひいっ!」


「よかった、気に入って頂いて何よりです。残りは全部メリーさんが食べてください」


「いいのっ!? ありがとっ!」


 また眩しい笑顔でお礼を言ってくれた。私はもう、メリーさんがポップコーンを食べている姿を見ているだけで大満足です。食べ終わってしまったら、帰ってしまうんでしょうね。寂しいです。

 ポップコーンを用意すれば、また来てくれるだろうか? ……食べ物で釣るなんて友達とは言えないですよね。正攻法でもっと仲良くなりたい!


 ……しかし、正攻法ってなんだろう? そこら辺の経験が一切無いから、皆目見当がつかないや。うーむ……。


「ふうっ、ポップコーンおいしかった」


「食べ終わったんですね。この布巾で手を拭いてください」


「ありがとっ。それじゃあ、今日はもう帰るわっ」


「……そうですか、やっぱり帰ってしまうんですね」


 そうだ、ポップコーンで引き留めたに過ぎない。これで終わりになんてしたくないな……。よしっ、ここは勇気を振り絞って言おう!


「あの、メリーさん!」


「んっ? なにかしら」


「えと、そのぉ~……。また、ここに来てくれますか?」


 ありったけの勇気を振り絞った、とても小さな声でのお願い。しかも、震えに震えている。我ながらとても情けない……。


「ここに? 香住がいいのなら、いつでも来るわよ。もちろん驚かせにね」


「や、やっぱりそっちがメインなんですね。でも、嬉しいです。楽しみに待ってますね!」


「うんっ、バイバイ香住っ。ポップコーンありがとっ」


 メリーさんは笑顔で手を振ってくれて、扉を開けないで、そのまますり抜けていった……。私を直接驚かせてくるよりも、今の光景の方がよっぽど怖く感じるんですよね。

 やはりあの子は人間ではないと再認識してしまったけど、また来ると約束をしてくれた。急いでポップコーンを用意しておかないとな。


 一緒にポップコーンを食べた。また来てくれると約束もしてくれた。これはもう、友達になったと言ってもいいんじゃないでしょうか!? とても嬉しい! 田舎のお母さんに報告をしよ……。

 いやっ、待て待て待て! 人間じゃない子と友達になったなんて言っても、絶対に信じてくれないぞ!


 ……これは、私だけの特別な秘密にしておこう。うん、そうしておこう。

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