2話、vs裏電、回線込み合い、やーさん

 さてとっ! 三日前のほとぼりも冷めただろうし、今日こそはこの街を、未曽有の恐怖へと叩き落としてやるんだからっ!

 ふふっ、楽しみだわっ。私のこわぁ~い声を聞いて震え上がり、とてもこわぁ~い私が目の前に現れたら、逃げ場の無い人間は泣きながらこう叫ぶの。

 「た、助けてっ! 殺さないでっ!」ってね。想像しただけで、全身がブルブルと震えてきちゃうわっ。さて、そろそろ始めよっと。今日最初の犠牲者は、いったい誰になるのかしらねっ。


 プルルルルルル……、プルルルルルル……、ガチャッ。


「私、メリーさん。いま、住宅街に―――」


「お電話、ありがとうございます。本日の業務は終了致しました。またのお電話をお待ちしております」


「あれっ? も、もしもしっ? 私―――」


「お電話、ありがとうございます。本日の業務は終了致しました」


「ちょっと、私の話を聞きなさいよっ! 私っ! メリーさん―――」


「お電話、ありがとうございます」


「ぐぬぬぬぬっ……! もういいっ!」


 ピッ。


 なによっ、バカみたいに同じ言葉を繰り返し言って! ……まさか、これも人間の作戦かしら? もしかして、この前の一件もあってか、私の事を警戒してる? ふんっ、人間のクセにやるじゃない。既に、私の対策を済ませているなんてね。

 まあ、仕方ないわね。この前、ずいぶんと暴れちゃったしっ。うふふっ、人間が怯えているいい証拠だわっ。このまま行けば一ヶ月、いやっ、数週間もあれば、この街はゴーストタウンと化するわね。


 そうしたら次に近隣の街を、そして更に隣の街を……。順調に事が進めば一年足らずで、この世界は私の手によって……。

 流石は、都市伝説である私ねっ! もはや恐怖の神と言っても過言じゃないわっ! さて、それじゃあ次の電話をしてやろっと。


 プルルルルルル、ガチャッ。


「私、メリーさん。いま―――」


「ただいま、回線が混み合っております。このままお待ち頂くか、しばらくしてからお掛け直し下さい」


「もしもしっ? 私……、あらっ? 音楽が流れ始めちゃったわっ。……このまま待てばいいのかしら?」


 なるほど、これも私対策ね。いいわっ、受けて立とうじゃないの。





 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 何分待てばいいのかしら? もうかれこれ二十分以上は待っているハズ。いくらなんでも待たせ過ぎよ。……そうか、これはきっと根競べってヤツね。

 先に諦めた方が負け、そうなんでしょう? ふふっ、わかってるんだからっ。でも、この音楽をずっと聴いていると、心地良いせいか、だんだん眠くなってくるのよね……。





 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「ま、まだ、なのぉ……? もう、ダメ……、寝ちゃい、そう……」





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 ガチャッ。


「大変お待たせして申し訳ございません。こちら、カスタマーセンターでございます。ご用件をどうぞ」


「……」


「もしもし? お客様、ご用件をどうぞ」


「……」


「お客様? もしもし? もしもーし?」


「……」


 ガチャッ、ツーッ……、ツーッ……。





 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





 ……ふぇっ、すっかりと寝ちゃったわっ。……あらっ? 電話が切れちゃってる。それじゃあこの根競べ、私の勝ちってことね。ふっふーんっ、他愛も無かったわね。

 さあ、だんだんノッてきたわよ。今、流れは完全に私の方に来ているわっ。この調子で、すぐに次の電話を掛けないと!


 プルルルルルル……、プルルルルルル……、ガチャッ。


「もしもし?」


「私、メリーさん。いま、住宅街にいるの」


「メリィ? 聞いたことねぇ名前だな。てめぇ、どこの組のもんじゃ?」


「えっ、くみ? くみって、いったいなんなのかしら?」


「しらばっくれてんじゃねぇぞゴラァ! なめとんのかぁ!?」


「ヒッ!?」


 な、なんでっ? こ、こいつ、いきなり怒鳴ってきたっ……。やだぁっ、こいつものすごく怖いんだけど……。


「べっ、べべべっ、別に、そう言うワケじゃ……!」


「だったら、さっさとどこの組のもんか言わんかいワレェ!!」


「ヒィィッ!? ……うっ、ううっ……。ま、間違えましたっ!!」


 ピッ。


「……ヒック……、グスッ……。ううっ……、な、なんなのよぉ、こいつぅ……」


 こ、怖かったぁ……。なによ今の……。絶対に名を馳せた怪物か、大妖怪に決まってるわっ……。そうよ、絶対にそうよっ……。

 ……とんでもない奴に電話を掛けちゃった、どどどっ、どうしよう……。間違いなくここに来るハズよっ。と、とりあえず、またほとぼりが冷めるまで身を潜めなきゃ……。 

 どうなってるのよ、この街っ! 私以外にも、とんでもない奴がうじゃうじゃといるじゃないっ! これからはもっと、気を付けて電話をしなきゃ……。

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