episode:1「ラッキーアイテムはアイリス」

 1年後の12月24日、この岡山駅前商店街はまた腐心病患者達に襲われた。たったの数人程度だが、商店街は地獄絵図と化す…

 滅多に現れないせいか、犠牲者は去年よりも多く見掛ける。


「落ち着いて避難してください!そこのロングコートの君!患者に近付いてはいけないよ!」

「お気遣いありがとうな。」

 住民を避難させる自衛隊員の指示に従わず、俺は1人患者の元へ行く。

 同じような現象が今日、他県でも起きた。日本政府は大好きなアメリカさんに救助を要請したらしいが、未だに1人も来ていない。


 後で分かった事だが、彼等腐心病患者は1人でも戦艦を破壊。至近距離で銃を撃たれても避けれるなどといったハイスペックを持ってるらしい。

 なるメカニズムはメディアにも一切出てないが、患者との事故に関するニュースは去年よりも少し増えた。

 彼らへの有効打は、という心が生み出す武器だけ。俺は実戦以外で使った事無いが、これは念じれば様々な事が出来るし他人が事も出来る。


 他人には決して見えない聖なる炎で、俺は患者…いや真っ黒い鬼を2人燃やす。断末魔を上げながら患者はどっちも息絶えた。


「恨みは微塵もない。が、昇太の家族を守る為だ」

 冷徹な青い瞳で彼等の遺体に呟く。復讐の為なのか2人の患者が飛び掛かる。それを見越した俺は、彼等と同じ様にで焼く。

 

 残る1人は2mもあろうかというデカい鬼だ。そいつは多くの人々を殺した後、俺を襲う。デカい拳で何度も攻撃してくるが素早く避け、すかさず反撃した。デカい割には素早いんだなこの鬼は。

 商店街に鬼達が出る事はレアケースに近い。岡山の鬼達は俺が全部殺してきたが、デカい鬼と対峙するのはこいつが初めてだ…。

 奴は駅前まで素早く後退し、桃太郎像をぶん投げてきた。


 俺には拳で物を破壊する様なパワーはない。ので一気に交わし、奴の懐まで間合いを詰める。それから脇腹をヤマタノオロチの炎の刃で焼き斬る。

「ぐぉぉぉ」と叫び声が響くが奴の攻撃は加速する。


「奴は蹴ってくるだろうな…」

 案の定、俺の読みは見事に当たった。奴の回し蹴りはしゃがんだ俺の頭をかすめただけだ。


 デカい振動と共に鬼はうつ伏せになり、俺はすかさず奴の心臓を炎の剣で刺す。難聴になりそうな程のデカい奇声を奴は上げてくたばる。


 叔父さん達が避難したシェルターに行こう。と思った瞬間、俺は道に落ちてた白いペンダントみたいな機械を拾う。

「誰のだ?名前刻まれてないぞ…」

「それは、君の物だよ。」


 驚いて後ろ振り向くと1人のパン屋がいた。どういう事だと言いたかったがそんな隙も無く奴は自己紹介する。


「ああそうか、日本だとこんな時は自分の名前を先に名乗るのが礼儀だったね。僕はオルコというんだ。僕が落としたのは事実だけど、さっきの戦いで痺れさせてくれたからそのあげるよ。」

「どうも」と言って貰ったがいまいち興味が湧かない。


 目の前のアップルパイ頭人あたまじんが意気揚々と話す。興味無いが耳を傾ける事ぐらいはしよう。俺はそう思って奴の話を聞く。


「パンドラはという長生きさせたい者を守ってくれる物の道標だ。アイリスという言葉を思い浮かべればそれに続く光るラインが出る。因みにパンドラが2つとも手元に無いと効果は十分発揮できない」

「それは…本当なのか?アイリスという物が長生きさせる為の補助装置というのは」

「興味無さそうだったけど反応変わったね。湧いてきたみたいだからもう少し話してあげよう。アイリスは念じた1000人以下集団のだけしか長生きさせられないよ」


 万能そうな物でも全員長生きさせる事が出来ないというわけか。そうだよな。人が幾度も繰り返してきた戦争や戦いでも、生き残った者もいれば犠牲になった者もいる。


「“全人類を助けたい”や“戦争をこの世から無くす”だなんてのは頭がお花畑な理想主義者の言い分で、平和は人の欲望を制御するシステムだ。若い奴が1人も死ななかった時代ときなんてのはない」

 真顔で俺が豪語するが、奴はただ頷くだけだ。


「君の考えは的を射すぎてるね。君は今時のチャラついた高校生に見えるけど、中身はTHE現実主義者って感じだね。その覚悟があるのか…を確かめたかったけどパンの配給があるからもう行くよ。後、僕ね君の事気に入っちゃった…」

「そうか…アイリスというのは探させて貰うぞ。」


 若干苦笑いし、俺達は別れた。


 あれから1ヶ月が経ち、商店街は復興していった。バイト先の居酒屋も、俺の実家「桃栗洋菓子店」を含めてな。俺は居酒屋の大将である魔論まろん叔父さんと組み、パンドラにまつわる情報を集めていた。だが未だにいい話を聞かない。


 情報収集がてら叔父さんの店でバイトしてると、叔父さんの1番下の娘さんが俺に抱き着く。


「進太郎兄ちゃん!遊んで!」

“嫌だな”と思わなかった。仕事していたが仕方なく相手した。

「魔由は元気だなぁ…じゃあ、遊びがてら俺の仕事手伝ってくれ。窓際のテーブル4つ拭いてきてくれないか?」

「ラジャー!」


 言われた通りに魔由は拭くが、いつもの通りにごね始める。


「進太郎兄ちゃん!拭いても取れない汚れがぁぁ!」

「洗剤付けてゴシゴシ攻撃したら、汚れというモンスターは倒せるぞ。」

 魔由はドバっと布巾に付けた。

「うぇぇぇん!目に入ったぁぁぁぁ!」

 俺は早く魔由の目を洗ってやった。ったく…本当に手のかかる奴だな。魔由は…。


 次に息子さんの相手をした。16歳になるが宿題の方程式が苦手らしい。

「ここはこうで…こういう風に考えれば解きやすくなる」

「成程…」


 俺は急いで持ち場に戻り、仕事を再開した。

「ごめん魔論叔父さん!サボった上に魔由に仕事させて…」

 堀が深い顔してるが叔父さんは少し笑う。

「子供達に構ってやったんだろ?それもいいけどよ、程々にしておけ」

「本当にごめんなさい…」


 仕事終えた後夕御飯を頂き、帰り際に仏壇で手を合わせる。昇太の奴だ。あいつは叔父さんの子供だったからな…。


 俺の横で叔父さんも御飯等を供えて手を合わす。そして俺に小言で呟く。

「変なペンダント持ってた奴見つけたと1人の客がほざいてたぜ。確か倉敷市と言ってたな」

「それは本当か、叔父さん?」

「まぁな。だけど目撃者はすぐ死んじまったらしいが…」

「第3の目撃者は命辛々逃げてきたんだな…敵はただの間抜けじゃないという事か…面白い」


 間を開けて俺は話す。

「引き続き、情報収集をやってくれないか?」

 叔父さんは笑顔で言う。

「やってやるけどその代わり俺の仕事バリバリ手伝えよ~後、明日そいつの詳細を教えるんだと。お前は当然…」

「聴く。聴いて物にしてやる」

「どんだけ俺達を守りたいんだよ…」


 話し合いを終え俺はバイトを終えた。夜の8時に客が全員帰ったのを見て叔父さんは店を閉める。


「進太郎…早くくたばんなよ…と叔父さんは多分思ってるだろうな。大丈夫、俺は早く死なない…と言いたいが、言ったとしても早死にしないという保証はないだろう。だけど俺は犬井家の為に絶対アイリスを手に入れてやる!他人の為に何もやらない奴が“弱者”なんだからな。」

 と俺は言いながら帰宅する。


 一方、1LDKマンションに住んでるに連絡が入った。すこし殺風景で安そうなソファーしかないリビングでテレビ見てたその人に…

 すぐさま鳴っていスマホを取り、「分かった」とだけいい、ある人はマンションを出た。



 

 



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