第一部 第三話
「足は大丈夫ですか、姫様」
「玄が丁寧に直してくれたからな、大事ないよ。テスト週間で丁度良かった」
「いや良くもないぞ」
「ほう?」
「あーやきー勉強教えてー」
「あたし数学ー」
「私英語ー」
「あたしも数学ー」
綾姫の寝室にどかどかと勉強道具付きで入り込んできたのは、八月朔日姉妹と湍だった。一緒に勉強すると約束はしていたが、それは主に綾姫が教師役を務めると言う事だ。座卓を囲んでキャッキャ言っている様は、まあ女子らしくて良いっちゃ良いのか。でも病み上がりを頼るなよなあ。
ちなみに台継の行方はようとして知れない。生きているのか死んでいるのかすら不明だと言う。学校には来ていないらしく、あちこちを痛めた女子が町中をふらふらと跋扈しているらしいが、それは俺には関係のない問題だろう。問題は三人そろって姦しいこのクラスメート達の事で。
「お茶が入りましたよ~、はい湍さんアールグレイのミルク、八月朔日さんたちはタージリンのレモンティーですよね?」
「わーい朱ちゃん久し振りー。昨日はちっとも話せなかったから嬉しー」
「あら、私人気者ですか? でも私、すうがくもえいごも出来ませんよー」
「朱、玄にもミルクティーを持って行ってやってくれ。昨日の礼に、砂糖は三倍」
「赤い彗星ですね、解りました」
何が解ったのか解らない。しょっちゅうスマホで暇なときはネット放浪してるらしいから、それ由来か?
「蒼君と銀君はしないの? 勉強」
「どうせ俺ら赤点とかないしそもそも在籍してないからな。机と椅子があるだけで」
「あー皇児兄のやりそうな事ー……その内綾姫が教師としてやってきて、二人は生徒、なんてこともあり得るのかもねー」
「勘弁してくれ、年上の女は苦手だ……」
「ん? 神木の陰にエロ本捨てていたのはお前じゃなかったのか、蒼」
ぶっと全員が一気に噴き出す。俺含む。
「なんだそれどっから出て来た疑惑だ!?」
「黒龍が言っていたではないか、龍の本性は淫らなものともいうがお前も大概だと――それでてっきり、掃除の時に見たあの妙に湿ったグラビア雑誌の事を思い出したのだが」
「俺じゃねーし俺はお前以外興味もねーよ!」
「あらまあ」
「あらあら」
「うふふ」
「それはいかんぞ、もっと外の世界を検分すべきだ、お前は。ネットミーム使い始めた朱のように」
「お願い俺の話をちょっとで良いから聞いて……」
三方からポンポンポンと背を撫でられてちょっとみじめになっていると、銀が一番同情的な眼をしているのに気付いて思わずサブレを投げる。ひょいと避けられて、さらに凹んでいると、なでなでと角を避ける独特の撫で方をされた。顔を上げると案の定綾姫だ。
「何が辛いのかは解ってやれんが、精いっぱい進むのだぞ、その道を」
一番辛いのが自分の言葉って、綾姫は解ってねーんだろーなあ。
はああっと溜息を吐いて俺は茶菓子をつまむ。
さてと、次はどんな事件が起こりますかね、っと。
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