第193話 出発進行
結局あの後、ワギャンと風呂に入った俺である。
風呂はゆっくり一人で浸かりたい派なんだけど、時間も遅くなってたし……ってわけだ。
そうそうアイシャは、風呂に大満足してくれてすっかり打ち解けたのか、タイタニアの部屋で一緒に寝ることになった。
俺はと言えば自室のベッドで寝転がり、タブレットを眺めている。
アップデートが完了してからバタバタしていて、以前とどう変わったかなんて後回しだった。
一応、以前のようにちゃんとハウジングアプリから注文ができるようになったことは分かっている。
さあて、何が変わっているのかなあ。
問題となったログから……お、アップデート内容のお知らせってメッセージが出ている。
どれどれ。
『アップデート内容
・ログ機能の修正
ログが削除できるようになりました。
・データ圧縮アルゴリズムの改善
データ容量がこれまでより43パーセント減少します。
・クラッシックハウスを追加
・カスタマイズパーツの追加
・注文リストの追加
・三画面対応機能の追加
・階層機能の追加
……』
ズラズラあるな。
ログを気にしなくて良くなったことと、新たに注文できる品目が増えたことが主なところか。
他にも細かいプログラム修正やらがあるが、正直良く分からない。
そもそも、ハウジングアプリが俺の知るWindowsやLinuxといったOSの上に乗っかっているわけではないし……な。
ハウジングアプリは魔法の産物だから、理屈じゃない部分もありそうだ。
ザーッとタップしてページ送りを実行、最後まで来たところで、ありがたいメッセージが。
こういうのってチュートリアル以来だから、ちょっと懐かしい。
『あなたはあなたの土地の中にいれば、絶対者です。安全その他全て保障されています。もっとも餓死などあなた自身の体調は考慮に入っておりませんので、予めご了承ください』
来たばっかで何が何やら分からない時に、このメッセージを見て随分と動揺したものだ。
だけど……どうせメッセージを表示するなら、少しは文面を変えてくれよ。同じメッセージじゃあ、味気無さ過ぎだろ!
のはああっとハウジングアプリにツッコミをし、オーマイガーと大袈裟な仕草をした時、窓を叩く音がする。
コツコツ――。
まさか、誰かいる?
窓に目をやるとカラスが嘴を窓に当てているじゃあないか。
俺には奴がどんな表情をしているかなんて分からない。だってカラスだし。だけど……あいつのことだから、俺の変なポーズのことは理解していそうだよ……。
――ガラリ。
澄ました顔で窓を開け、カラスに一言。
「見た?」
「良く分からんが体操をするなら、ベッドから降りた方がいいんじゃねえか?」
「そ、そうだな……ははは」
バッチリ見られておりましたよ。さすが鳥。目が良い。
……見たのがカラスで良かった。
やっぱり、カラスと言えども所詮鳥類よ。人間の仕草なんぞ分からない。よおおし、今のは誰にも見られていない、そうだそうだー。
「一人芝居はそろそろもういいか?」
「え、うおおお」
「全く……魔法が使えるようになって、浮かれる気持ちも分かるがな」
「そ、そうなんだ。つい」
よおおし。ナイス勘違い。
このまま何事も無かったことにしてしまおう。
「ま、その分だと問題なさそうだな」
「もう行くのか?」
部屋にさえ入らず、飛んで行きそうになったカラスを呼び止める。
「ポテトチップスもいただいたしな」
「ありがとう、カラス。君が儀式魔法を使ってくれたから……」
「面倒い話は要らねえ。お前といると面白いことばっか起きるからな。その礼だ。あと、ポテトチップスもな」
バサバサーっと逃げるようにカラスは飛び去ってしまった。
タブレットのことを心配して見に来てくれたんだよな。
「ありがとう、カラス」
心の中で再度礼を述べる。
シャーっと窓を閉め、再びベッドに寝転がった。
確かアップデートで「選択できるリストが増えた」って書いてたな。
どれどれ、どんなモノがあるのかなあ。
「ふああ」
疲れとみんなに会えたことでホッとしたからか、メニューを表示させたところで意識が遠くなりそのまま寝てしまった。
◇◇◇
「後ろに乗ってくれ。足は届く?」
「大丈夫だよ」
マルーブルクが足を伸ばし、ひょいとひまわり号の後部座席の座る。
「結構スピードが出るから、しっかり掴まっていてくれよ」
「りょーかい」
翌朝、出立の準備を整えた俺とマルーブルクは、グラーフに向かうべくひまわり号に乗り込んでいた。
ゴブリンタウンに行った時のようにタイタニアにもついて来て欲しかったが、残念ながらひまわり号だと後ろに一人しか乗せることが出来ない。
一方でワギャンはハトに乗り空から後を追いかけて来てくれる予定だ。
そんなわけで、タイタニアが俺とマルーブルクを見送りに来てくれている。
「行ってくる」
「うん。戻って来たらお話を聞かせてね!」
タイタニアがハンドルを握る俺の手に自分の手を添えた。
彼女は俺の身を案じ「気をつけて」なんて事は言わない。主君であるマルーブルクのことも俺と同じように、心配する様子もなかった。
何故なら、彼女は知っているし実感しているからだ。ハウジングアプリで購入した土地が「絶対無敵の安全地帯」だと言うことを。
「あ、フジィ。カラスさんは?」
そろそろ出発しようとしたところで、ふと思い出したようにタイタニアが呟く。
そういや、カラスがいないな。
「あれ、さっきまで居たんだけどなあ」
「一緒に行かないの?」
「来たけりゃ来る……と思う。飛べるし……」
「そうだね! わたしも空を飛んでみたいなあ。気持ち良さそう」
「確かに!」
何かいい手がありゃいいんだけど。展望台くらいならいけるか? 戻って来てから考えよう。
高いところから見る風景を想像し、顔がにやけてきた。こいつは、楽しみになって来たぞ。
「愛の囁きはもういいのかい?」
会話が途切れたところで、マルーブルクがすかさず口を挟む。
これに反応したのがタイタニアだった。
「マルーブルク様。フジィをよろしくお願いします」
「うん。頼まれたよ」
あれえ。ナチュラルに会話が進んでいる。
だけどさ、どちらかと言うとマルーブルクじゃあなく、俺が保護者じゃないの?
「おいおい、まだ居たのか? (フェリックスを)待たせてるんじゃねえのか?」
「痛っ!」
二人のやり取りを眺めていたら、死角から舞い降りたカラスに頭を突っつかれた。
「来てくれるのか?」
「気が向いたらな」
と言いつつも俺の頭から肩へぴょーんと移動するカラスであった。
じーっとカラスの顔を見たら、顔を逸らされる。
「この乗り物から感じる風が味わいたいだけだ」
「それが本音かよ!」
「いや、違うな」
いやいや、これ絶対本音だって。痛っ!
こ、こいつめえ。
「……行こう! タイタニア、戻ったらまた話をするよ」
首元をさすりながら、カラスのことは放置しタイタニアの方へ顔を向ける。
「うん! 行ってらっしゃい!」
彼女と笑顔で手を振り合ってから、ハンドルを握り込む。
ひまわり号はぶおおんとエンジン音を吹かせ一気に加速して行く。
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