第171話 なんかきたああああ
ワギャンが変なことを言うから寝られなく……なることは無くグッスリと寝て目覚めもスッキリだった。
いよいよ山に入るわけだが、昨日と同じくリーメイだけを連れひまわり号で向かうことにする。
彼女が一番案内役に適しているからな。他のみんなは自由行動だけど、敷地の外に出ることは控えるように決めておいた。
なので、ハトとワギャンによる偵察は無しだ。
万が一、溶岩弾に当たったら一たまりもないからなあ。致し方ない。
溶岩弾はちらほら見るくらい降ってきているし、堰を切ったように大爆発が起こらないとも限らない。
既に竜人の集落に対する防衛網は完成しているので、焦らず確実に噴火口を塞ぐことに注力しようじゃあないか。
進み初めて三十分ほど……バイクのスピードをそれほど落とすことなく進んだため、もう山の中腹が見えてくる辺りだ。
しかし、このまま進むとみんなのいるところまで戻るのが大変になるかもしれない……。
原因はここまで進んできた道なんだよな……一旦ひまわり号を停車させ、来た道を振り返る。
「どうされました?」
後部座席に乗るリーメイが首をかしげて尋ねてきた。
「道の確認をしていたんだ」
来た道は「階段状」になっている。
段差がなかなかのもので、バイクで降るには厳しそうだ。モトクロスか何かなら……いや、俺にそこまでの運転技術なんぞない。
ひまわり号が通過する時は真っ直ぐ進むだけだったことは間違いない。現に何の苦労もなく進んできたからな。
だけど、山というのは頂上に向かって激しく傾斜している。
ハウジングアプリで購入した土地はデコボコしてようが真っ平らになるんだ。
その結果、傾斜があるため十メートルのマスごとに段差になる。十メートルなのは、俺が一度に購入する土地の長さが十メートルだからだ。
土地を購入した時から段差になっていたはずなんだけど、何で段差を感じる事なく進めたんだろう?
今更ながら気になってしまったんだが……。
「頑丈そうで登るに適した階段状の道ができていますね」
「うん」
「ひまわり号で進んでいる時に、登る感じはしませんでした。そこで魔力を使われ過ぎたのでは……? 僅かですが魔力をメシアに供給することはできます。私の魔力なんてメシアにとっては雫程にもならないとは思いますが……」
「自動判定で動かされたのかな……」
ミミズの時と似たようなものか。
勢いよく段差に突っ込んだら、移動判定が成されて段差の上に自動的にせり上がる。降りはどうなるか不明だけど、一度降りてみたらすぐ分かるか。
「よし」
「いつでもどうぞ」
「ん、持つなら俺の腰を持ってくれ。肩に寄りかかると危ない」
「魔力はよいのですか?」
「ち、近い……」
肩に指先を添え、頭を俺の肩に寄せるリーメイは真剣そのものだ。
ハウジングアプリのパワーの源は、魔力やオドなんかじゃなくゴルダ。つまり、お金である。
便宜上、みんなには魔力と説明しているけど、カラス曰く、俺に魔力はほとんどないそうだ。
変なのが混じってるとは言ってたが……。
リーメイから距離をとり、逆に彼女の両肩に手を乗せる。
「全く問題ない。安心してくれ」
「は、はい……」
戻る時に支障があれば、橋をかけた時のように高い位置から真っ直ぐに道を配置すればいい。
両端を支えていない場合は、橋の時と違って道が下に落ちるかもしれないけど……その時はその時だ。
俺の予想では、支えが無くとも頑丈な道ができると思っている。
登る時の仕組みに納得した俺は再び進み始めた。
「もうすぐです」
後部座席からリーメイが前に手を伸ばす。
やや右前方だな。
この辺りはマグマも流れていたからなのか、草木がまるで見当たらない。
小高い丘が視界を遮り、リーメイが示す方向に火口があるのかは確認できないが。
しっかし、彼女はよくこんな危険地域まで調査に来たよな……。
「よく怪我なく無事に戻ってこれたな」
ちょうど落ちてきた溶岩弾へ向け顔をしかめる。ほんと火山活動が活発だよな。
しかし、リーメイから返って来た言葉は意外なものだった。
「山の麓までは来ましたが、命を落としかねないので……実際にここまで来たのは初めてです」
「え、それじゃあ、どうやって」
「魔術と竜人が持っている能力です。メシアは竜人の女子に似ておりますが、竜人では無かったことを失念しておりました」
「え、えっと」
「竜人には熱感知の能力があります。私は魔術で感覚を鋭敏にしているのです」
「お、おおー。すげえな」
爬虫類の一部……蛇なんかが持つ熱感知の能力を竜人も持っているってことかな。
考え事をしている間にもリーメイの言葉が続く。
「い、いえ……巫女ならば多少の魔術は使えます。偉大なる大魔術師であらせられるメシアにお褒めの言葉をいただけるなんて……」
「いやいや、適材適所だよ。一緒に頑張ろうぜ」
「は、はい……メシアはとても変わった方ですね」
「そ、そうかな……」
「はい」
身を乗り出し、とてもいい笑顔でコクリと頷くリーメイ。
この様子なら、万能じゃあなくてガッカリしたとかは思われていないようだな。
安心してくれ、見えない壁の力は絶対無敵だ。ふふ。
会話をしているうちに小高い丘の頂上まで辿り着く。
丘を挟んで窪地になっていて……行く手に真っ赤に染まった火口が見えた。
噴煙をあげ、時折マグマが噴きあげる火口は、まだまだ沈静化しそうにはない。
「窪地全体を覆うようにして封鎖しよう」
「他にも熱源が無いか探っていますが、あの火口が強すぎて難しいです。申し訳ありません」
「封鎖した後、他に探知できればそこも封鎖すればいいだけさ。まずはここからやろう」
「はい!」
よおっし。
それではちゃっちゃとやっちゃいますかあ。
土地を購入するだけの簡単なお仕事だ。
ひまわり号のスロットルを絞り、進み始める。
半ばほどまで土地の購入が済んだ時、耳をつんざくようなドーンとした爆音が響き渡る。
「な、なんだ?」
「火口……いえ地の底から……う……」
「どうした?」
「これまでにない熱源が……」
な、なんだと。
こいつは急がないと。
あと半分。
――ドゴーン! ゴゴゴゴゴゴ!
こ、今度は深い位置じゃあないぞ。地中であることは確かだが、浅い。
「リーメイ、魔術を止めた方がいい」
リーメイは自分の感覚を高めているんだ。さっきから辛そうにしているし、ことここまで来たら探知は必要ない。
「もう(魔術を)止めてます。魔術が無くとも、沸騰しそうです」
リーメイはくたりと俺の背に自分の頭をつけ、両手を添える。
ひまわり号を停車させ、彼女を降ろし地面に寝かせた。
「火口を塞ぐまで辛いだろうけど、このまま待っていてくれよ」
「だ、大丈夫で……」
「リーメイ!」
全然大丈夫じゃねえ!
彼女の体から力が抜けたかと思ったら、そのまま気を失ってしまった。
その時――。
とんでもない爆発音と共に、火口から真っ赤なマグマが吹きあがる。
周囲の岩も跳ね飛ばし、マグマが渦となり何かが飛び出してきた。
パラパラと大きな岩がとめどなく降り注いでいるため、何が起こっているのかよく見えない……。
ようやく霧が晴れたかのように視界が戻った。
「な、なんじゃあれええええ!」
予想外過ぎる光景に酷い叫び声をあげてしまう。
※でたあ。ハウジングアプリ名物。変な生物。
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