第169話 山だ
軽食を取ってからすぐに目的地へ向かうこととなった。悠長に食事とか思うかもしれないけど、とても大事なことなんだ。
腹が減ると思考力が鈍り、判断を誤る可能性が多少高くなる。それに、リーメイとロンが増えた分の移動手段を考える必要があったからな。
ハウジングアプリのメニューリストには、残念ながら車が存在しなかった。オート三輪なんてマニアックなものがあると言うのに……。
バイクを追加したところで、俺以外は「運転してくれ」と言っても練習もせずに運転ができるわけがない。
シロクマさんは二人までだし……このままだと一人余っちゃうんだよなあ。
悩んでいると、サンドイッチをむしゃむしゃ美味しそうに食べていたワギャンが「何を悩んでいるだ?」と言った風に呟く。
「人数が増えたのなら、幌を引けばいい」
「なるほど。馬車か」
ひまわり号で馬の代わりになる。馬車用の荷車ならファンタジーでよくみる幌付きのモノがアプリのメニューにもあったはず。
記憶違いでも台車類はいろいろあったから、そいつで代用が効く。
さっそくタブレットでメニューを開くと……あったあった。赤色の車体にクリーム色の幌って派手なのがあるぞ。
なんだか汽車の車体みたく見えるけど、機能的には問題ないはず。
さっそく注文!
「……」
「ふじちま?」
「入らねえのか……」
固まる俺を心配したワギャンに声をかけられるが、「大丈夫」と彼に向け首を振る。
宝箱のサイズ的な問題で、荷車が出てこねえ。
これくらいの大きいアイテムなら、カスタマイズメニューの家具に入っててもよいもんだが……宝箱から出るタイプ扱いなんだよなあ。
気を取り直して、カスタマイズメニュー宝箱(超特大)を画面にうつしこみ……ってでけえなこの宝箱。
「ごめん、少し動いてもらえるかな」
「はい」
「うん」
リーメイとロンに少し左に寄ってもらって……っと宝箱を実体化。
でけえ……。
ともあれ、これで荷車を出せる。
荷車を無事出せた後は、宝箱から運び出すのにみんなの力を借りることに。
苦労して出した後に気がついたんだけど、宝箱を消せば良くね?
もう二度と使わないから、無駄にはならないし。
ま、まあいい。
頭をかきながら、今更ながらに宝箱を消去する。道の真ん中にでーんと鎮座しているから邪魔だしな。
ひまわり号にガチャガチャと荷物を取り付け、準備完了だ。
ロンとリーメイに荷車へ乗ってもらい、後ろから指示をもらう形でゆっくりと進みはじめる。
よし、問題無さそうだな。
徐々にスピードをあげ、一路目的地へ向かう。目指すは火山の裾野だ。
◇◇◇
荷車を引いていたとは言え、ひまわり号はシロクマよりスピードが出るので速度的な問題はなかった。
徒歩や自転車とは比べものにならない速度で進んだため、あっという間に目的地の近くまで来ることができたんだ。
残念ながら日没を迎えてしまったため、作業は明日だなあ。
本日はアポロ型の建造物を3棟建築し、夜を過ごすこととなる。
アポロ型は見た目こそ三角錐に近いけど、必要な施設がコンパクトに詰められた優れた家だった。
一階はキッチンと風呂。二階はベッドが二つ。二階からハシゴが伸びており、ちょっとしたロフトへ上がることができる。
ロンとリーメイ、リュティエとワギャン、俺とタイタニアに分かれて就寝することになった。
せっかくだから、ロンと一緒でもいいかなと思ったけど、リーメイがまだまだ気持ちが不安定だからロンとの方が良いだろうと判断したんだ。
「それをリュティエのところへ、俺はこっちをリーメイのところへ持ってくよ」
「うん!」
出来合いの料理を三つに分け、お盆に乗せて持っていくことに。
運んだ後はゆっくりと食事をして、風呂に入りベッドへ寝転がる……とリラックスした時間を過ごす。
寝転ぶとすぐウトウトしてきて、意識が飛びそうになっているところで隣のベッドで寝転ぶタイタニアが呟く。
「火の玉は夜でも落ちてくるんだね」
時折大小様々な大きさの赤い光が空から降ってくる。
見えない壁に当たる赤い光もあり、我が土地に沿うように転がる溶岩弾も増えてきた。
「ロフトの窓からならよく見えるけど、見に行く?」
「ううん。フジィははやく寝ないとだよ」
「今日も一日動いたしなあ。タイタニアもゆっくり休んでくれよ」
「うん! わたしに魔力があれば少しでも足しになるかもしれないけど……ごめんね」
「いや。魔力は十分だ。問題ない」
これだけゴルダを使っているのに、減るどころか微増している。
サマルカンドのみなさんには足を向けて寝れん。
しかし、タイタニアが気になることを言っていた。
「魔力は分け与えることができるの?」
「詳しいことは分からないの。カラスさんがそんなことを言っていたよ」
「カラスがか……戻った時、覚えていたら聞いてみるか」
「うん!」
単なる興味本位だ。俺には魔力が無い……多分。カラスかグバアがそんなことを言っていた気がする。
「しっかし……」
ゴロンとベッドを寝転がった。
「どうしたの?」
俺の声を聞いたタイタニアが顔をあげる。
「いや、単なる独り言だから気にしないで」
「うん!」
タイタニアは上げた頭を下ろし、枕に頭を埋めた。
つい口をついて出てしまったな……。
しっかし、当たり前だが俺は無知だ。地球にいたんだもの、異世界のことが分からなくて当然と言えば当然ではあるけど。
この世界は災害が多すぎる。それも破壊的なものが。
カラスに災害発生の仕組みと魔力について聞けば、多少は理解できるようになるだろうか?
仕組みを把握することで、発生頻度とかをある程度予測できりゃあなあ。
「ふああ……」
寝ころんで頭を捻っていたら、すぐに眠くなってくる。
意識が朦朧としてきたころ、タイタニアが何かブツブツ言いながらゴロゴロしていたけど何を言っているのかもはや俺の頭に入ってこないでいた。
意識が途切れる前にふわりと甘い香りがしたような……。
◇◇◇
――翌朝。
荒地と山脈にはハッキリとした境界線は無く、荒涼とした平地から傾斜が始まり、山へと至る……といった感じだ。
この辺は異世界といえども地球と変わらない。突然、砂漠になったり、砂漠の隣がうっそうとした熱帯雨林が広がるといった気候をあざ笑うような地形は今のところ見ていないかな。
もっとも……謎生物は大草原で何度も見たが……空飛ぶピラニアとか地面から湧いてくるカタツムリとかさ。
思い出しただけでゾッと背筋が寒くなる。スイカ亀だけは歓迎だけどな!
「この山の上層部が噴火口です」
リーメイが山の頂を指さし、口元を震わせる。
どうやって溶岩弾をせき止めるかなあ。
ここから真っ直ぐに壁になるよう我が土地を伸ばせば、溶岩弾が竜人の集落へ飛来することは回避できる。
だけど、事ここに及んで作戦を変更した方がいいんじゃないかと思えて来たんだ。
「噴火口って限られているのかな?」
「他にもあるのかもしれません、危険過ぎて近寄ることができていませんので……」
ふうむ。
いっそのこと噴火口を囲むように我が土地で覆ってしまえば、土地を購入する面積も少なく、麓に我が土地を敷くより速くて確実だと思ったんだが……。
特定できていないとなると、いや、もう一つ重大なことを忘れていた。
そもそも麓を覆うだけじゃあ、問題の解決にならないかもしれない。
「竜人は荒地だけじゃあなく、山脈にも住んでいるんだよな?」
そうなんだよ。竜人は荒地に住んでいるだけじゃあないんだ。
「はい。ですが、山脈は荒地以上に広大なのです。竜人の居住地域にほぼ影響を及ぼしていないと聞いています」
「なら、山脈の竜人を考慮する必要はないか」
となると、麓でも噴火口でもいけそうか。
※いよいよ発売です! 試し読みもありますので、是非一度、グバアさんの神々しさを見てみてください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます